角川つばさ文庫小説賞

第3回<一般部門>結果発表!

第3回<一般部門>結果発表!

第3回角川つばさ文庫小説賞〈一般部門〉は、
最終候補4作品の中から、選考委員のあいはらひろゆき先生、
宗田理先生、本上まなみ先生による議論の結果、
下記の作品が大賞と金賞に選ばれました。
大賞、金賞受賞作品は、今秋に角川つばさ文庫から刊行される予定です。

一般部門受賞作品

大賞

超吉ガール 〜コンと東京十社めぐりの巻〜

遠藤(えんどう)まり(応募時ペンネーム:燕藤まり)

ストーリー
中学1年生の水戸瀬燈子は、家の近くの神社で『超吉』と書かれたおみくじを引く。すると急に、お稲荷さまに仕えることを夢見る少女・コンと、その師匠の天狗・瑠禍の姿が見えるようになる。コンは燈子に、自分と友だちになって一緒に東京十社の神社をまわり、夢を叶えるための「ご朱印集め」に付き合ってほしい、と頼む。でも、燈子は小学校時代の辛い思い出のせいで、友だちをつくることにおくびょうになっていて……。
プロフィール
遠藤まり。女性。おとめ座のB型。
七草がゆ、福豆、ひなあられ、柏もち……と季節の行事と和菓子が大好き。趣味は神社めぐりとお腹の底から声を出して、歌うこと。
受賞の言葉
 はじめまして。このたびは『角川つばさ文庫小説賞 大賞』と身にあまる賞をいただき、ドキドキとワクワクで胸がふるえています。
 あいはら先生、宗田先生、本上先生をはじめ「超吉ガール」の可能性を信じてくださいました角川つばさ文庫編集部のみなさま、本当にどうもありがとうございます!
 数年前、スーパーのおもちゃコーナーでお仕事をしていた時、目をキラキラと輝かせた子どもたちから「ぜったい面白いから読んでみて!」とお気に入りの本の名前をたくさん教えてもらったことが今、ココへの招待状……小さいけれど、確かなきっかけでした。
 「超吉ガール」は不器用な主人公がご朱印を集めながら、友だちといっしょに世界を広げていく、きっかけの物語です。時に迷いながら、それでも前進していくと、思いがけない出来事が待っている。お話を書いた私自身が今、身をもって、実感しています。
 この気持ちを胸につばさ文庫が大好きな人たちの元へ、心ゆさぶる物語をお届け出来るよう、書きつづけて参ります。これからどうぞよろしくお願いします!
金賞

名推理はミモザにおまかせ!

月(つき) ゆき

ストーリー
ミモザ・トキタは「謎とき」が大すきな10歳の女の子。いつか頭に鳥が住むように髪の毛を鳥の巣みたいにしてたり、ブカブカの大きな眼鏡をかけていたり…ちょっとかわった子だけど、その推理力は本物。ケーキや指輪をぬすんだ犯人や、消えた待ち合わせ相手の謎を次々解明! しかし謎をといていくうちに、それが大きな事件につながっていることがわかり!?
プロフィール
月 ゆき。女性。やぎ座のA型。
趣味は洋裁。今はコートをぬっています。お気に入りのペットはハムスター。好きなおやつはひまわりの種(人間用のもの)。ペットとおそろいです。
受賞の言葉
 このたびは素晴らしい賞をいただきありがとうございました。あいはら先生、宗田先生、本上先生、選考にあたられました皆様に心よりお礼を申し上げます。
 私がミステリーと出会ったのは、小学二年生のとき。アルセーヌ・ルパンが活躍する『8・1・3の謎』を読んだのが最初です。
 「給食」と「友達と遊ぶこと」を楽しみに小学校に通っていた私の日常に、「図書室でミステリーの本を借りること」が加わりました。
 その日以来、夢中になってミステリーを読んできました。かつての私と同じように、このお話を読んだ皆さんにも、わくわくして楽しんでもらえたなら、こんなにうれしいことはありません。
 本の世界へ通じる扉を開くお手伝いができるよう、がんばっていきたいと思います。
 楽しい謎のあるふしぎな世界で、主人公たちといっしょに、思いっきり冒険してみませんか?

選考委員選評

あいはらひろゆき

プロフィール
作家。著書に「くまのがっこう」「がんばれ!ルルロロ」「クローバーフレンズ」など。
選評
 今年もすばらしい作品にたくさん出会えて、楽しい選考となりました。まず、大賞の「超吉ガール~コンと東京十社めぐりの巻~」ですが、東京十社をめぐって朱印を集めるという古風なモチーフがとても新鮮でした。こういったモチーフは小学生の女の子たちにはとてもフィットするのではないかと思います。
 そして、この作品の何よりの魅力は等身大の友情をしっかりと描いている点にあると思います。学校の中だけのうわべの友情に飽き足らなかった主人公はご朱印集めを通じて友だちと深く関わっていきます。そして、コンと友人のけんかにも触れて「友だちと真摯に向き合うことの大切さ」に気づいていきます。ティーンエイジャーにとって友だち関係は最も難しく、かつ重要な問題です。そのテーマに素直に向き合った姿勢はとても好感が持てました。大賞おめでとうございます。
 続いて、金賞の「名推理はミモザにおまかせ!」です。この作品はとてもファンタジックで、かつシャーロック・ホームズばりの推理や謎解きもあって、ともすると海外の作品かと思わせる空気感が漂うステキな作品です。今までの「つばさ文庫」にはない、新しいスタイルの作品として注目されるのではないでしょうか。ただ、あえて言わせてもらうと、ラストの展開をもう少しひねってくれればなおよかったのではないかと思います。
 惜しくも今回は選外となった2作品も受賞作品に負けない魅力がありました。
 まず、「花子さんはトイレにいる」です。これは定番の「花子さん」ネタですが、やはりいつの時代も強いモチーフです。主人公の恵や冬美の個性も魅力的でした。後半の展開にもう少し盛り上がりが作れれば、より魅力的な作品になったでしょう。
 最後は「羽住紅のエターナルラブ~呪い少女とアポローン~」です。これはコミック的な軽妙さとオカルト的なおもしろさを持った作品です。ただ、主人公への共感性や展開の弱さが少し目立ち、あと一歩となりました。次作を楽しみにしています。

宗田理(そうだ おさむ)

プロフィール
作家。代表作『ぼくらの七日間戦争』。「ぼくら」シリーズは角川つばさ文庫でも大人気。
選評
 「超吉ガール~コンと東京十社めぐりの巻~」の、今どきの中学生が神社でおみくじを引くという出だしには、ちょっとびっくりしたが、これはぼくの認識不足で、最近は神社でおみくじを引くどころか、ご朱印を集めることが流行になっているらしい。
 東京十社の描写と、そこで繰り広げられる友だち同士のやりとりは読んでいて楽しい。ご朱印集めというアイディアに加えて、中学生の生活感と神社のディティールがよく描けていた。タイトルは一考の要あり。
 「名推理はミモザにおまかせ!」は、主人公の推理好きの女の子と、白いマントの少年とが、競い合いながら事件を解決していく様子がテンポよく描けていておもしろい。現場に残された謎の文字から死神を突き止め、女王の暗殺計画あたりの後半から前半の勢いがなくなってしまっているように思う。小学校中学年向けのミステリー入門としておもしろいのではないか。
 だれもが知っている都市伝説、トイレの花子さんを題材にした「花子さんはトイレにいる」。あえてこのテーマに挑む以上、作者がどんなアイディアを盛りこんでくるのか期待したが、「トイレの花子さん」と「ヤミ子さん」という二つのうわさを軸にした展開では、読者に新鮮な驚きをあたえられないのではと思えた。学校の女子トイレだけが気味悪い場所ではない。作者は力のある人だと思うので、この次は、がらりと題材を変えて書いてほしい。
 「羽住紅のエターナルラブ~呪い少女とアポローン~」を、読み終えて最初に感じたのは、小学五年生という年齢設定が少しずれているのではないかということだ。こういったラブストーリーは、中学生か高校生を主人公にした方が幅も出て、おもしろいものになるように思う。全体を通すと少し読みにくい点はあるが、作者の感性の良さがわかる不思議な魅力のある物語だ。再挑戦を待っている。

本上(ほんじょう)まなみ

プロフィール
女優、タレントとして活躍するほか、エッセイや絵本などの著作も多数。
選評
 「超吉ガール〜コンと東京十社めぐりの巻〜」は、最も胸キュン度の高い作品。中学生女子のとてもリアルな挫折とそれを乗り越えてゆく成長物語として読める感動作だと思います。「あの頃」の女子の気持ち、男子の気持ち、亡くなった「おばあちゃん」を思う気持ち等々が丁寧に描かれています。小学校と中学校時代、二種類の親友たちのキャラクターも立っていて、さらには物語を支える東京十社めぐりやそれぞれの街の様子、ご朱印集めなど、舞台装置もちゃんと取材、確立され、色や音、匂いがダイレクトに伝わってくる小説でもありました。
 「名推理はミモザにおまかせ!」は、最も可愛らしい作品。小学生女子が大歓迎しそうなファンシーワールドです。架空の村、キュートでスマートなヒロイン・ミモザの連作プチ推理ものというのもいい視点。ひとつひとつのお話が完結しつつ、連作として次第に大きな事件へとうねっていくという展開が巧いと思いました。登場人物のキャラも魅力的。複数のサプライズもきっちりと用意されています。シリーズ化も視野にいれられる、既に世界が確立している小説だと思いました。
 「花子さんはトイレにいる」は、オカルトマニアの友だちに振り回される、巻き込まれ型の主人公がおかしかったです。おなじみの素材を使いながら、ちゃんと独自の描写、設定で怖くもっていくところに手腕を感じました。友人が「美人で変わり者」というのもうまい。焼け跡の喫茶店描写など、装置も非常によかったと思います。
 「羽住紅のエターナルラブ〜呪いの少女とアポローン〜」は、ユーモラスなのんびり感が独特な作品。ピンチの時、コワい展開となってもあまり焦らないところに不思議な魅力がありますね。主人公の男の子の優しいキャラクター、がつがつしていない善人ぶりもポイントが高いです。うざい「羽住」くんがしだいにクラスに溶け込んでいく展開も笑えました。
 今度は冒険小説も読んでみたい。期待しています!