こども部門受賞作品

ねずみの水晶玉

矢吹優奈（小学3年）

ストーリー

ある晴れた日、ねずみのネズが散歩をしていると、川のあさせで何かきらめく物が落ちていました。持って帰って近所のリスじいさんに聞いてみると、それは占いができる水晶玉でした。占いのやりかたを知らないネズは、物知りはかせのチュウをたずねます。やさしいチュウはかせは、「水晶玉で占う前にする大切なこと」を教えてくれました。占いができるようになったネズは、さっそく占いのお店を開きます。すると、悩みをかかえた森の仲間がつぎつぎやってきて……!?　ネズの占い屋、本日開店です!!

選評

お話がよくまとまっていて、するすると読むことができました。各場面がこまかな様子までよく書けています。「フサフサの大きなしっぽをいきおいよく立て」や「ブラシに朝つゆをたっぷりつけて」など、かわいらしい表現もとても上手です。リリのあまくておいしいさくらの花、ミズキさんのチーズクリームパン、ササキさんの大きなはちみつのパンケーキなど、食べものがとってもおいしそうなのも魅力的！　何もかもがかわいらしく、ギュッとだきしめてあげたいお話でした。

飽食時代

綾星鳴夏（中学3年）

ストーリー

物語は、大統領の重大発表からはじまります。プラスチックごみの削減に乗り出した「N国」は、プラスチックを食べることを「義務化」する法律を公布したというのです。はじめは抵抗していた国民も、じょじょに食生活を変化させていき、おいしい調理法も次々と生み出され、その一方で、野菜をまったく食べない時代がやってきたのです。N国はプラスチックごみの増加に悩んでいたのに、ついには野菜の処理に手を焼くようになりました。

選評

ごみの削減のために、プラスチックを食べてしまうとは、ユニークな発想ですね。300年の時間の経過をとても上手に描いています。「もしかしたら、現実に起こりうるかもしれない」と思わせながら、スピード感を持ってストーリーが展開していく構成がすばらしいです。また、長らく社会が抱えている食やゴミの問題、人間のエゴや愚かしさに対し、皮肉を込めた表現が秀逸です。世界に疑問符をもってむきあっていく姿勢を、文章から感じました。

はい色のねこ

はるはる（はい色のねこ）

ストーリー

サトシは塾からの帰り道の公園で、はい色の毛玉のようにうずくまっている元気のないねこを見つけました。飼い主がいないようでしたが、サトシの家では動物飼うことができないため、公園の「ひみつのきち」につれていき、コロと名前をつけて、食べものを持っていきました。それから一週間、サトシはコロと遊び、なかよくなりましたが、突然、お父さんの仕事で引っこすことになってしまいます。サトシはコロをつれていこうと考えますが……。

選評

のらねこのコロを、公園の秘密基地で飼うことにしたサトシ。親にはたよらず、自分でめんどうを見ようとするサトシの奮闘ぶり、おもわず応援してしまいます。コロのケガや、サトシの家の引っ越しなど、次々とトラブルが起きますが、そのたびにコロのことを懸命に考えるサトシの心の動きが、ていねいに描けています。最後にはコロを飼うことをゆるしてもらえてホッとしました。ネコのしぐさもリアルに描けていました。よく観察していますね。

かぎとかぎあな

薫田結衣（小学5年）

ストーリー

直緒の転校が決まった。引っ越しの日、親友の千里と小春は直緒のもとに駆けつけ、2人は「離れていてもずっと友だちだよ」と言ってくれました。しばらくして、転校先で友だちもでき、新しい生活にも慣れたきた直緒のもとに、千里から封書が届きます。内容は千里と小春が仲違いをしてしまったとのこと。そのとき直緒は思いだします。亡くなったおじいちゃんのとの約束の言葉――「かぎとかぎあな」。また3人が親友に戻るため、直緒は2人の住む町へ向かい……。

選評

物語に起きやすい「不思議なこと」に頼らず、しっかりしたテーマを持って書かれていることにとても好感を覚えました。キャラクタやディティールもきちんと描けています。引っこしで部屋に向かって叫ぶシーンは、読んでいてとても切なくなりました。途中の疑問をその先で回収したり、タイトルとおじいちゃんの存在とエンディングを繋げていたりと、構成力は目をみはるものがありました。5年生が書いたとは思えない、本当にすばらしい作品です。

夏についてた物

吉武菜奈（小学6年）

ストーリー

おばあちゃんの家が、もうすぐ取り壊されてしまう。最後の夏に遊びにきた璃子は、そこで妙な3人組と出会います。名前は、「うつり」と「ひかる」と「わっか」。家の中に知らない人がいたことに驚くと、彼らは自らを「付喪神」と名乗り、自分たちが宿っている「もの」を探してほしいと頼んできました。家が壊されてしまうと、3人は消えてしまうらしい！　璃子は彼らの記憶を頼りに家の捜索をはじめます。けれど、「わっか」だけはあきらめモードで、探そうとしなくて……。

選評

とても読みやすい綺麗な文章に驚きました。璃子の中にずっと残るひと夏の思い出が鮮やかに描かれています。神様の姿の描写も、「付喪神」から想像するような古めかしい感じではなく、新鮮で面白いです。名前と少しの記憶からおばあちゃんの家を探す様子は、さながら探検や宝探しのよう。読みながら、古くもあたたかい家の様子、間取りまで想像がふくらみます。意固地になっている「わっか」はどうなっちゃうの？　という心配で最後まで読ませるところも工夫があります。

レターセット

環茉鈴（小学6年）

ストーリー

おばあちゃんが死んでしまった。それから私はこわい夢を見るようになった。理由はわかってる。「おばあちゃんなんかいなくなればいい！」ってケンカしたまま、お別れになってしまったから。そうして私は笑うことができなくなり、学校にもいけない「不登校」になってしまった。落ち込んだ私はある日、「ふしぎ屋」という店を見つける。そこで売っていたレターセット。これで手紙を書くと天国に送れるみたいだけど……!?　おばあちゃんにも届くかな。

選評

そんなつもりじゃなかったのに、つい言ってしまったひどい言葉。言わなければよかったけれどもう取り戻せない一言ってありますよね。後悔の気持ちが伝わってきます。「ふしぎ屋」の様子や、「音を奏でるだけで、周りの人が眠くなる！　魔法のリコーダー」などの商品名もよく考えられていて、目に浮かびます。おばあちゃんとの文通が楽しくて、つい「ごめんなさい」を後回しにしてしまい、いつの間にかレターセットを使い切ってしまったという展開もよく考えられていました。

キライ、スキ、青空

しかごまい（中学２年）

ストーリー

中学2年生のそらの親友は、学年のなかでも美人で目立つ湖春、莉子、ゆゆ佳の3人。ある日、4人はディズニーランドへ行くが、そらがトイレに行っている間に、3人がそらのことを「気持ち悪い」「うざい」と話す声が聞こえてきた。さらに、そらをはぶいたLINEグループで悪口を書き込むのを見てしまい、そらはその場で吐いてしまう。それ以来、湖春たちはそらをいじめるようになり、万引きを命じる。万引きしたそらが家に帰ると、異変に気付いたお母さんが待っていて……。

選評

構成がしっかりしていて、読みごたえがありました。人物の描写が上手で、そら、湖春、莉子、ゆゆ佳のキャラクターが目に浮かぶようです。そらがいじめに気付く部分ではどきどきしましたし、いじめのシーンでは胸が苦しくなるほどの衝撃がありました。ラインや化粧品などの使われ方や台詞がとてもリアルで、感情が動くようすを丁寧に描けています。いじめという重いテーマですが、最後にそらが正面から対立し、やりこめるシーンは爽快感があり応援したくなりました。

黒板に映る。

河合ゆみ（中学３年）

ストーリー

だれもいなくなった教室の黒板で「黒板アート」を描くことをひそかな楽しみにしている内気な女の子、凛音。ある日、消し忘れた絵のそばに、だれかからの『絵、上手だね！』というメッセージを見つけ、やりとりをすることになります。ようやく会えたメッセージの相手は、楓という名前の女の子。楓の励ましによって、凛音は少しずつ、クラスの中で居場所を作ることができるようになっていきますが、楓と会える時間は、あまり残されていませんでした。

選評

黒板アートという題材がいいですね。メッセージの相手、楓が実は幽霊だったというのは意外でした。楓に励まされて自分のカラをやぶり、教室になじむことができた凛音。お礼のためにも、最後に楓のために絵を描きたい！　と願い疾走するドライブ感がとてもよく書けていました。少しずつ成長する主人公が頼もしく、絵を通して、クラスの友達になじんでいく過程には勇気がわきました。凛音と楓の友情がかわいらしく、別れが切なかったです。また出会えることを願ってやみません。