角川つばさ文庫小説賞

第1回<一般部門>結果発表!

第1回<一般部門>結果発表!

第1回角川つばさ文庫小説賞〈一般部門〉には、
265本のご応募をいただきました。
どうもありがとうございました。
最終候補作4作品の中から、選考委員のあいはらひろゆき先生、
宗田理先生、本上まなみ先生による議論の結果、
下記の作品が大賞と金賞に選ばれました。
大賞作品は、今秋に角川つばさ文庫から刊行される予定です。
また第2回角川つばさ文庫小説賞の募集期間は、
2013年7月1日(月)〜2013年8月31日(土)になります。
あなたの作品を、お待ちしております!

一般部門受賞作品

大賞

四年霊組こわいもの係

床丸迷人(とこまる まよと)

ストーリー
 あさひ小学校4年生になった友花は、始業式のあと、5年生の麗子から呼び出される。あさひ小では、4年1組出席番号4番の子どもが「四年霊組こわいもの係」に任命されるのだと麗子はいう。去年の係だった麗子は、友花に、役目のひきつぎをしに来たのだ。  こわいもの係の仕事は、あさひ小で起こる怪奇現象を解決すること。友花は、座敷童の花ちゃん、鏡の精の鏡子さん、ガイコツ模型のお化けドクパンなど、霊組のなかまとともに、「雪女の落とし物探し事件」「バレンタインデーのすすり泣くラブレター事件」など、さまざまな問題にたちむかっていく。そして、友花がぶじにこわいもの係を卒業する目前の3月、最大の事件が起こって……!?
プロフィール
床丸迷人(とこまる まよと)。本名非公表。男性。1969年生まれ。宮崎県在住。会社員。
受賞の言葉
 まずはこのたびの受賞にあたり、この場を借りて審査委員の先生方や審査に関わられたみなさまに心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
 今回は「大賞受賞」という栄誉の上に「第1回」という大きな冠までついてきました。
 とかく「1番目」なるものは、そのモノの歴史を語る上で非常に重要であることは言うまでもなく、「第1回サッカーWC王者はウルグアイ」だとか「初代総理大臣は伊藤博文」だとか「仮面ライダーと言えば1号は別格扱い」などなど、枚挙にいとまがありません。「角川つばさ文庫小説賞」もこれから先、第2回、第3回…と連綿と続いていくわけで、その歴史の筆頭に名前を飾ることが出来たことを、心からうれしく思います。
 全てにおいて未熟な私ではありますが、「第1回の大賞受賞者」の名に恥じぬよう精進して参りたいと考えていますので、なにとぞよろしくお願いいたします。

選考委員選評

あいはらひろゆき

プロフィール
作家。著書に『くまのがっこう』、『クローバーフレンズ』など。
選評
 栄えある「角川つばさ文庫小説賞」第1回の応募作品ということもあり、読ませて頂いた最終候補作品はどれも個性的で力のこもったものばかりでした。この賞への関心の高さと期待を感じさせるものだと思います。
 まず大賞に決まった「四年霊組こわいもの係」ですが、これはまさに学園幽霊ものの王道を行く作品と言っていいでしょう。つばさ文庫の読者にもぴったりの作品と言え、今から人気シリーズ化が予感されます。明るく成長していく主人公の友花はもちろん、かわいい花ちゃんやクールな鏡子さんといったキャラクターたちも魅力的で、次々と起こる事件がテンポよく解決されていく展開も小気味よく、楽しく一気に読めました。これから、つばさ文庫の新しい顔に育っていってほしいという願いも込めて、大賞に選ばせて頂きました。
 次に残念ながら賞には届かなかった3作品についてです。まず「らくがきウルファ!」ですが、作品の完成度、エンタテインメント性という意味では出色の作品だったと言えます。格闘シーンの迫力、登場人物たちの内面描写も秀逸でした。ただ、この作品が「つばさ文庫」の顔となる方向のものかというと難しく、もっと他のジャンルでこの才能を生かすほうがいいのではないかという結論になりました。続いて「インスタントつくもがみ」ですが、この作品もとても力のある作品でしたが、話の軸になっている主人公の家族関係の描写が児童文学としては重すぎるのではないかという意見が多く、残念ながら選から漏れる結果となりました。また、「しろいろクレヨン」については、物語の展開がややわかりづらく、エンタテインメント性という点で弱いという印象でした。ただ、3作品とも力のある作品であることは言うまでもなく、今後にぜひ期待したいと思います。

宗田理(そうだ おさむ)

プロフィール
作家。『ぼくらの七日間戦争』をはじめとする「ぼくら」シリーズは角川つばさ文庫でも大人気。
選評
 4作品ともそれぞれ個性があって、興味深く読ませてもらった。
 「インスタントつくもがみ」と「らくがきウルファ!」は人形や絵が魂を持つというところの発想は似ているが、両方ともオリジナリティあふれる設定がよかった。
 とくに「らくがきウルファ!」の画獣が戦う場面は息をもつかせぬ面白さで、文句なく読ませる作品だったが、「つばさ文庫」の小説賞という観点からいくと、読者対象が高い年齢という点で、選外とした。この作品は別のジャンルでぜひ読みたい。
 「インスタントつくもがみ」は、不思議な世界を通じて成長していく少年を描いた良い作品だったが、この作品の重要な要素として盛り込まれている少年の家庭環境が、「つばさ文庫」が対象とする読者にはシリアスで、少し大人向けの内容なのではないか、との理由で選外にした。
 「しろいろクレヨン」は、内容がやや弱いうえ、文体も読みづらかった。ただ、高機能自閉症児の朝日くんのキャラクターと描写には惹かれるものがあった。朝日くんのような人物を主人公にしたミステリーをぜひ書いて欲しいと思う。
 これら三作品にくらべて、登場人物のキャラクターがよく書きこまれていたのが、「四年霊組こわいもの係」だ。学校の怪談を題材にしながらも、ぞくぞくさせるだけのただのこわいもの話にはせず、ユーモラスに処理したところも新鮮で、読後感もよかった。こうした特長を伸ばしてテンポを良くすれば、シリーズ化も期待できる。以上のような理由から、「つばさ文庫」らしさ、というものも加味して、大賞には「四年霊組こわいもの係」を選んだ。
 今回の最終作品に、冒険小説が残らなかったのは残念な気がした。次回は、ぜひ心躍る冒険小説なども期待したい。

本上(ほんじょう)まなみ

プロフィール
女優、タレントとして活躍するほか、エッセイや絵本などの著作も多数。
選評
 「四年霊組こわいもの係」は、子どもたちの(そして私も)大好きな怪談ものです。この作品はかなりライトで、ユーモアもあり、とても楽観的なところが美徳だと思いました。情景を豊かにビジュアライズできる力のある作風で、小学校生活が鮮やかに描かれています。いわくつきの北校舎、ヒロインが過ごす4年生の1年間=春夏秋冬を1話完結の連作スタイルで描いた、連続テレビアニメーション的な手法が、次第に登場人物たちのキャラを立ち上がらせていくことに成功。最後の終業式の章はちょっと胸きゅん感覚さえやってきました。シリーズとしてもっと読みたい気持ちにさせるところも頼もしいです。
 「インスタントつくもがみ」は、私にとって今回いちばんわくわくできて面白かった作品でした。『陰陽師』や畠中恵さんの小説でけっこうポピュラーになった感のある「つくもがみ」世界を、現代に舞台を移して見事に新しく結晶させていると思いました。少年が青年になっていく大切な過程を目撃したような気持ちにさせてくれました。老若男女取りそろえたキャラ設定も見事です。今回の「児童向けエンターテインメント」という範疇に入れるには重く繊細なテーマが混在しており選外となってしまったのは残念ですが、きっとどこかで別の本として再会できることと確信しています。
 同様に「しろいろクレヨン」「らくがきウルファ!」ともに、ドラマ設定や展開に非凡な冴えを感じましたが、そもそも題材、言葉遣いの点で、いずれも「9〜12歳」の児童が消化するにはかなりハードルが高く、選外としました。この2作は素材も発想も魅力的なので、「わかりやすく書く」「読み手を意識する」という原点に一度立ち返って再考いただければ新しい道へと突破できるのではないかと感じました。