こども部門受賞作品

選評

規則正しい石成の生活に興味をひかれ、冒頭から引き込まれました。『えびす君シリアル』がなくなるというニュースから、まるでパニック小説のように、物語は動き出します。日常の生活におかしみを感じさせ、落語のようなおもしろさで、後の展開が早く知りたくなる作品です。石成の『えびす君シリアル』を得るための全力の行動や、彼を心配する会社の社長など、こっけいな人々の描写にうなり、これが小学５年生が書いた小説とは、という驚きと尊敬の思いで読み終えました。

選評

天気管理会社という設定、雲井をはじめとする登場人物たちがユニークで、楽しい作品です。土砂降りの雨を降らせてほしい一花と、その日は絶対に晴れてほしいかずや。雲井への正反対の依頼に、いったいどんな結末を迎えるのか、最後まで読みごたえ満点でした。キャンプ嫌いの一花と、野球に打ち込むかずやの、それぞれの成長が感じられるラストも心地よく、読後の爽快感がすばらしいです。斬新なアイデアを、たしかな筆力で、疾走感たっぷりにまとめる力はお見事でした！

選評

アンキロサウルスをはじめ、さまざまな恐竜が登場して、とても楽しいお話です。自分の足が遅いことをからかわれたからだけでなく、友達を馬鹿にされたことが悔しくてなかなかあやまることができないアキの気持ちに、強く共感しました。恐竜の中で遠巻きにされていたジロちゃんが、「見た目や、それぞれの特性がちがっていても、それぞれいいじゃないか」というメッセージを自然に教えてくれます。小学1年生が、こんなお話を書けるんだと、読んだ人みんなで驚きました。

選評

スノウの旅の途中のエピソードひとつひとつが意外性たっぷりで、まるで自分の目の前でみーたんさんが、お話をしてくれているようでした。「それで？　それからどうなるの？」と、思わず声をかけたくなってしまいます。長い旅の最後、もうだめだと思った瞬間、ランドセルの持ち主が押し入れを開けて願いが叶うという、冒頭のエピソードにつながります。スノウの願いを叶えてくれた神様の笑顔と、押し入れの奥の暗闇に広がったふしぎな青い光が、目の前にうかんできました。

選評

地の文で語られる「実際のできごと」と、主人公の菜乃花が覚える違和感、彼女の中での「真実」の書き分けが、とても素晴らしい作品でした。物語の構成もしっかりしていて、始まりから終わりまでテンポよく読むことができます。悪魔が登場して、手帳に秘められた謎が明かされた時には、手が震えてしまうような恐怖を抱きました。菜乃花が失った記憶を全てバッドエンドに書き換えられ、暗い人生を歩むことになってしまう、ラストの後味の悪さもお見事。とにかく面白かったです！

選評

芽生は消された記憶を思い出すことができるのか、そして、その記憶とはいったい何なのか。どこかはかなく、幻想的な描写が素晴らしくて、作品世界に引き込まれました。芽生が、夏澄が死んでいることを思い出してからは、明かされていく事実に驚かされる一方、二人の深い友情に心を打たれました。また、「ピーターパン」や「ネバーランド」という秘密基地の名前が、終盤活きてくるのが見事です。切なくも、芽生の明るい未来を感じられるラストも感動的で、力作でした。

入賞

選評

ハルとピーンの出会いから別れまで、たった数時間のできごとが、とてもあたたかく、ドラマティックに描けています。自分の星を救おうと奮闘するピーンが健気で、可愛らしかったです。20 年後のハルが登場するラストも、ピーンとの絆がたしかに感じられて素敵でした。

選評

部員たちが春音に寄り添う様子、そして夏美先生が「自分を必要とする仲間がいることの素晴らしさ」を伝えた場面に、感動しました。作品づくりの描写も美しく、目の前に一枚の大きな絵が広がっていくようです。イラスト部のこれからの活動をもっと読みたくなりました。

選評

浦島太郎の子孫の女の子が主人公、そして、彼女もまた竜宮城に行くことに……というユニークな設定に、冒頭から微笑ましい気持ちで、楽しく読みました。中盤からは、壮大な冒険ファンタジーに。物語のスピード感と、登場人物たちのテンポ良い会話劇が魅力の力作です。

選評

動物に変身できるというふしぎな力や、「変わり者屋」の設定がおもしろい作品です。「見習い」から「一級変人」をめざし、仲間たちと成長していく様子は、読みごたえたっぷりでした。クライマックスの一級試験では、驚きの技でクマに勝利する描写に引き込まれました。

選評

死を受け入れていく「僕」の姿に切なさを感じていたら、今度は家族にまさかの事態が。でもそれは夢で、「僕」は本当に死をむかえ――。先が読めない怒涛の展開が続き、何度も予想を裏切られました。彼がなぜこんな夢を見たのか？　読後に考えさせられる深い作品です。

選評

主人公の巫女や、白虎が化けた「しろ丸」が可愛らしいです。京の東西南北を守る神社の四神獣や、魔情鬼にまつわる逸話など、歴史や伝説をよく調べていて、物語に活かされていました。神獣たちとかき氷を作るラストも、意外性があって、コミカルでおもしろかったです。

選評

ソランのスランプを救ったのは、画家がいるとの噂を聞いてアトリエを訪れたノンでした。ソランが頑張ってきたからこそ、得られた出会いだと思います。今が苦しくても、積み重ねた努力はきっと明るい未来を運んできてくれる。前向きな気持ちになれる優しいお話でした。

選評

読者を制限してしまうかもしれない、「わたし」と転校生へのいじめの表現が、彼女たちが「蚊」だという設定と、淡々とした語り口によって、誰の心にも届く作品に仕上がっています。二人が自らの特性を活かして飛び立つ、希望のあるラストへのつなげかたも素敵です。

選評

一度入ってみたいと思わせる雰囲気いっぱいのバー、都市伝説的なお菓子と、それにまつわるエピソード。前半のロマンチックな描写にぐいっと惹きつけられ、後半は一転してハードボイルドな展開に。ラストが秀逸で、一話完結のショートショートとしてうまくできています。

選評

物語の起承転結のつくり方や、心情描写がとても丁寧です。主人公が悩み、やがて恋をして、想いがつのって涙を流す——。全体の雰囲気が詩的にまとめられていて、とても素敵でした。音楽にまつわる表現も、具体的で、自然に挿入されていて、物語世界に没入できました。

選評

主人公・桜井くんの葛藤や、自らの性別に違和感を持つ南野さんの過去、そして二人の対話もしっかり描かれていて、物語が一体どこに着地するのか、はらはらしながら読み進めました。桜井くんと南野さんならではの「好き」、関係性について、丁寧に考えぬかれた作品です。

選評

未知の世界を、主人公の日記形式で読み解く、という突飛な構成ながら、たしかな描写力で骨太な内容にまとまっていて、応募作の中でも他にない作品でした。政治・民族対立の話を丁寧に描き、ラストの種明かしでは、一気に物語世界が、風刺的に、真に迫ってくる力作です。

選評

身近な世界観の作品ながら、興味深い状況設定、テンポよく進む調査、そして意外な事実と、ページをめくる手がとまりませんでした。日常ミステリーとして、謎解きの場面が魅力的な点に好感が持てます。伏線の張り方や情報整理がうまく、会話のテンポ感も秀逸でした。

選評

自分の取り柄は、自分ではわからないものなのかもしれません。「人の悩みを丁寧に聞ける」という美香子の才能を、七海君が言葉にして教えてくれます。初めは後ろ向きな気持ちでも、一生懸命取り組んでいればいつか実を結ぶ、素直にそんな希望が持てる素敵なお話でした。

選評

小鳥遊と天ヶ瀬には、「普通とは何か」の問いに思いをめぐらせているという共通点がありました。その答えを見つけられず絶望する二人、しかし、それぞれの葛藤を超えて、「普通」にとらわれず思うままに生きる決意をします。最後の二人の爽やかな表情が印象的でした。

選評

新しいことにチャレンジするのは勇気がいる。けれど、今いる場所から一歩踏み出せば、見える世界はもっと広く、カラフルに色づく。読んだ人の背中を押してくれる、あたたかいお話でした。３つの課題に向き合った白李が、弟の天心に寄り添うラストにも、胸を打たれます。

選評

図書室・包丁・同級生というインパクトに、冒頭から引き込まれます。少女３人のキャラクターが絶妙で、後半のアクションシーンも緊張感をうまく出せていました。他人に無関心だった詩帆が、心花たちとの交流で成長するところも素敵です。シリーズとして読みたくなりました。

選評

「僕」の記憶にかくされた秘密と、「お年寄りの女性」の正体が明かされた時、驚きと感動で胸がいっぱいになりました。終盤で語り手が入れ替わる、構成力の高さも素晴らしいです。近未来的な世界観と、まっすぐなラブストーリーがうまくマッチした、見事な作品でした。

選評

「うつむいていたら、幸せになれる瞬間を失ってしまう」。ユニークな設定ながら、メッセージ性の高い作品でした。一度挫折した幸花に寄り添うように、彼女の変化を丁寧に描いているのが素敵です。豊川くんを直接的には登場させない仕掛けと、タイトル回収も秀逸でした。

選評

まぬけな山芋と、一筋縄ではいかない家主のやりとりが軽妙で、緊張感があります。山芋がその場を切り抜け、ほっとしましたが、家主を名乗っていた男が、実は山芋より先にしのびこんだ泥棒だったという驚きのラストまで、とても楽しかったです。名前のオチも見事でした。