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まなみ、尊、若葉、行成は動物に変身できる! 笑いもトラブルもたえない生活の中、まなみたちにしか見えない『見えない卵』が学校で見つかり、周りの生徒が意識を失う事件がおきた! ナゾが解けないままむかえた学校一のイベント・体育祭。ところが、大事件がおきて中止の危機⁉ 体育祭はぜったい中止させない!!!
『放課後チェンジ 最高のコンビ? 嵐の体育祭!』
(藤並みなと・作 こよせ・絵)
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『放課後チェンジ 2巻』 ためし読み
プロローグ ―― 尊たける ――
オレ、神崎 尊(かんざき たける)。中一。
好きなのはスポーツ全般(特にバスケ)、祭り、ボスバーガーとか。
きらいなのはピーマン、アンキ系の勉強、すぐ破れるゴミ袋!
オレには幼稚園からいっしょの同い年の幼なじみが三人いて、そいつらと「チーム㋐(マルア)」っていうチームを組んでる。
まずは、斉賀(さいが)まなみ。左右の三つ編みがトレードマーク。
ランドセルを忘れて小学校に登校したり、授業中にしょっちゅういねむりして怒られたり、食べ放題では毎回ゼッタイ食べすぎて、後からおなかが苦しいと言っていたり。
とにかくドジでグータラで食いしんぼう。
そして、チョロくて単純でアイドル好きのミーハー女子。
……だけど、正義感が強くて、おかしいと思ったことには相手がだれであろうと声をあげるし、こまってる人がいたら手を差しのべて見すてない。
あと、まなみはいざという時のドキョウと根性がすごいんだよな……。
次が、水沢 若葉(みずさわ わかば)。黒髪のショートボブ。
小さいころからしっかり者で、感覚がするどい。霊感もあるみたいだ。
色んなことに気がついて、よくまなみの世話をやいてる。オレたち幼なじみ以外にはあんまり自分の気持ちを話さないけど、それは若葉が人の気持ちを考えすぎるからだと思う。
思いやりがあるのは若葉のいいとこだけど、そんなにエンリョしてたらつかれそうだよなー。
ゲームをする時の集中力はハンパなくて、どんなジャンルもプロ級に上手い。
リズムゲームはフルコン連発だし、オレがいっしょに格闘ゲームすると瞬殺でボコられ、オセロをやると石を全部とられる。ゲーム中の若葉は、無慈悲なオニだ。
最後に、今鷹 行成(いまたか ゆきなり)。くせのないサラッとした髪で、背が高い。(いいよなー)
全国テストで一位をとるくらい、めっちゃ頭が良くて、視野が広い。親は茶道の家元。
あんまり感情を顔に出さずに淡々と話すからクールっぽいけど、実はジョーダンが好きで、すげー負けずぎらい。何でもそつなくこなすように見えるのは、行成がカゲでできるようになるまでくり返し、しつこいくらい努力してるからだ。
親がすすめた私立のエリート校に行かずにオレたちと同じ地元の中学に進学したのは、小二の時にオレとしたある約束のせいなのかもしれない。
行成はオレでもつかみきれないところがあって、ときどき不意打ちでとんでもねーことをするのだけはカンベンしてほしい。
まなみ、若葉、行成、そしてオレ。
おそろいのフシギな指輪をはめたことで、動物に変身する力を手に入れたオレたち四人だったが、体育祭で大事件が巻きおこる!
予測不能の強敵にいどむことになったチーム㋐は、次々と大変なことになっちまうんだ――。
1章 調理実習ちょうりじっしゅうは大さわぎ
1 追跡(ついせき)! 動くなわとび事件
「逃げられた! まなみ、そっちだ!」
「わかった!」
わたし、斉賀まなみ。中一。
わけあって幼なじみ三人と、チーム㋐っていうヒミツのチームを組んでいる。
そして、チーム㋐はただいま風ノ宮中学校の校庭のすみで、追いかけっこのまっさい中!
「待ちなさーい!」
わたしたちが追いかけてるのは――しゅるしゅると地面をすばやく動く、『なわとび』だ!
どうしてなわとびが勝手に動いてるかって?
ごめん、今はとりこみ中だから、あとからまとめて説明するね!
なわとびは、校舎の横の道に入っていく。
人がひとり通れるくらいのせまい場所。
ここを追いかけても、スピードを出して走れなそさう。
このままじゃ逃がしちゃう!
瞬間、体がカッと熱くなって、右手の中指の指輪がピンクに輝いた。
ボン!
わたしの体は、サーモンピンクの子猫に変身。
幼なじみたちも、それぞれ動物にチェンジしたみたい。
これなら走って追える!
わたしは小道にとびこんで、前を行くなわとびとグングン距離をつめていく。
なわとびの手で持つ部分、「持ち手」がカラカラとはずみながら逃げていくのを見てると、なんだかムズムズしてきて、無性に飛びつきたくなってきた。
カラカラ……ああ、ガマンできない!
えーい、と思いっきりジャンプ!
つかまえた! と思ったけど、おしいところでスルリと逃げられた。
「まなみ、あせらないで!」
ハムスターに変身した若葉ちゃんに、後ろからたしなめられる。
「ごめん、なんかナゾの衝動が……猫の習性かな」
なわとびはカランと持ち手をかべにぶつけながら、校舎の角をまがっていく。
少しおくれて、猫のわたしとハムスターの若葉ちゃんも角をまがって、せまい小道をぬけだした。
「どこいった……⁉」
目の前に広がるのは、ひとけのない中庭。
なわとびは、どこにも見えない。
「まなみ、若葉!」
中庭につづく反対の通路から、黒い柴犬になった尊がとびだしてくる。
尊はあえて他のルートを行ってたんだね。
「なわとびは⁉」
「植えこみの中にもぐりこんだのが見えた。このあたりにはいるはずだ」
バサバサッと空から舞いおりてきたのは、タカになった行成だ。
行成は校舎の上から追っていたみたい。
わたしたちは注意深く、校舎のかべに沿って長く植えられた茂みを横からのぞきこむ。
でも、うまく草の間にかくれてるのか、なわとびはなかなか見つからない。
「植えこみの中に入ってさがす?」
猫のわたしがたずねると、ハムスターの若葉ちゃんはふるふると小さな頭をふった。
「まわりが見えにくくて動きにくい場所で、もし襲いかかられたら危ないよ」
「たしかに」
なわとびが飛びだしてきたらすぐつかまえられるように、みんなでじりじりしながら植えこみの茂みを見はっていたら――ボン!
変身が解けて、わたしたちは元の姿にもどった。
もう二十分くらいたったんだ。
「くやしいけど、そろそろ他の生徒も登校してくるし、今日はここまでか」
「そうだね。あー、おしかった!」
尊の言葉にうなずいて、校舎へ行こうとしたわたしは、不意にグイッと足を引っぱられた。
「わわっ⁉」
転びそうになったのをなんとかこらえて下を見ると、なんとわたしの足首になわとびがグルグルとまきついてる! ええっ、ウソでしょ! このタイミングで出てくる⁉
「チャンスだ、まなみ!」
尊の声にハッとして、わたしはからみついてくるなわとびの持ち手をつかんだ。
「つかまえた!」
瞬間、ピンクの指輪がまたピカッと光って、なわとびは力を失ってだらんと地面に落ちる。
そして、上空に現れたのは、なわとびにとりついていた悪霊(あくりょう)。
ウロコにおおわれた、ニョロニョロと長い体。
口からはしゅるしゅると赤い舌を出し入れするその動物は――ヘビ⁉
ギャー、わたし、ヘビはめっちゃ苦手なのに!
ゾゾゾッと背すじに悪寒がはしって、固まってしまうわたしに、シャアッと襲いかかってくるヘビ!
「まなみ!」
もうダメ、と思ったけど、わたしの腕を行成がグイッと引っぱってくれて、ヘビの一撃はなんとかかわす。
行成は座りこんだわたしの足元に落ちたなわとびをすばやく拾うと、右手でなわとびの真ん中あたりをつかんで、そこを支点に持ち手をひゅんひゅんと回してから、勢いよくヘビに投げつけた。
左手でにぎったもう片方の持ち手をグッと引くと、なわとびのロープがからまってもがくヘビに向かって、指輪のはまった右手をかざす。
「成仏しろ」
行成の手のひらから放たれた青い光が、ヘビの悪霊をおおっていた黒いもやをみるみるうちに飲みこんで、まばゆい白い光に変わっていく。
ヘビは白い光に包まれたまま空にのぼっていくと、すうっとその姿を消し、同時に白光は四つに分かれて、わたしたち四人の指輪に吸いこまれた。
「まなみ、だいじょうぶ?」
「ナイス、行成!」
若葉ちゃんと尊が集まってくる。
「ありがとう、行成」
わたしが立ちあがりながらお礼を言うと、行成はかすかに笑ってうなずいた。
はあ~、ハラハラした。あっ、やっと一息ついたから、説明するね!
この前のゴールデンウィーク、わたしはおばあちゃんの家の蔵で、ドキッとしたりゾーッとしたりすると動物に変身しちゃう指輪を見つけた。
どうやら動物の霊がとりついた『伝説の指輪』らしくて、これをつけてると動物に変身する以外にも、動物の言葉が分かったり、人間の姿でも動物の能力が使えたりするんだ。
だけどこの指輪、どうしても外せない!
しかも幼なじみの尊、若葉ちゃん、行成もまきぞえにしちゃった。
指輪を外すためには、動物の悪霊たちを、指輪の力を使って昇天(しょうてん)させなきゃいけないんだって。
悪霊は、古い物や、想いのこもった物、強い怒りや悲しみなどの負の心をもった人にとりつくらしい。
動物に変身しちゃうなんて、他の人に知られたら大変なことになっちゃう!
だから、わたしたち四人は、悪霊が起こしてると思われる怪事件を調査して、解決するためのヒミツのチームを結成したんだ。
それこそがチーム㋐!(マルアって読むけど、アに丸でアニマルって意味をこめてる)
そして今日は、『生徒の足にからみついて転ばせようとする、動くなわとび』という怪事件のウワサを聞いて、わたしたちが通う風ノ宮中学校に朝早~くから来てね。見事、なわとびを見つけて、とりついていた悪霊を昇天させたというわけなんです!
やったー、拍手! パチパチパチ……!
「それにしても、ちょうどいいタイミングで変身できてよかったね」
「さっきのような緊急の場合は、とっさに変身したいと願えばできるようになってきた気がするな。悪霊を昇天させて霊力を吸いこむほど、指輪の本来の力がもどるという話だっただろう。もしかしたら、指輪の力がもどるほど、好きな時に変身できるようになったり、逆に望まない変身はしにくくなったりするのかもしれない……希望的な観測だけど」
行成の話に、みんなの目が輝いた。
「それはめっちゃ助かる! けど、やっぱ、早く外したいよなー」
ぐいぐいっと指輪を引っぱって、まだとれないことを確認しながら、尊が言う。
わたしの指輪も、今日もビクともしなかった。
ほんと、早く解放されたいよ~。
2 熱血先生とさわやかキャプテン
「そうだ。みんな、バンソーコーつけよう」
しっかり者の若葉ちゃんが、ポケットから四つのバンソーコーを取りだす。
学校にいる間は、バンソーコーで指輪をかくすことにしてるんだ。ずっとバンソーコーをつけてるとハダがふやけちゃうから、学校以外ではすぐ外すようにしてるけど。
「ありがとう」
受けとってグルグルとまいているとちゅうで、ふああ、と大きなあくびが出た。
悪霊探しは人目につかない時間帯がいいってことで、今朝はすごく早起きしたし……。
それにくわえて、動物に変身するのって、すごく体力使うんだよね。
だから、一度変身した後は、少し休けいをいれないと、ドキッとしても変身しないんだ。
さっきヘビの悪霊を見た時も、ふだんなら変身してたはず。
事件が解決できたのはいいけど、朝からもう、つかれちゃったよ~。
「でかいあくび! また授業でいねむりしてヨダレたらすなよ」
尊にからかわれて、わたしは力強く言いかえす。
「いねむりはしても、ヨダレはたらさないよ‼」
「いねむりもしないで、まなみ」
すかさず若葉ちゃんにツッコまれ、そうだな、と行成がうなずく。
「むしろヨダレはたらしても、いねむりはガマンすべき」
「そんないつもヨダレたらしてないから! 人を変なキャラにしないで!」
四人でわいわいしゃべりながら教室へ向かっていたら、体育館のほうから、背の高い男子生徒とマッチョな先生がやってきた。
「神崎いいいいいい! 元気だったか?」
マッチョな先生は、尊に気づくと、大声をだして走ってくる。
確か、バスケ部顧問の地井川(ちいかわ)先生。
「は、はい」
「元気ならバスケ部にもどってこい! 今も朝倉とおまえの話をしてたんだ。もうすぐ夏季大会だ! レギュラーは約束する!」
尊のかたに手をおいて、熱っぽく語る、地井川先生。
名前はちいかわなのに、声も体もでかくて圧がある。
「すみません。オレ、まだもどれません」
「なぜだ⁉ おれにはわかる! おまえはバスケを愛している! それなのに、なぜ休部なんてするんだあー⁉」
「あ、愛……」
大げさな物言いに、少し赤くなる尊。
わたしも聞いててはずかしくなってくる。
「もどってこい、神崎!」
「気持ちはありがたいけど、ムリです」
「そんなこと言うな! もどってくると言うまでおれはあきらめないぞ、カムバック、カムバッーク、神崎いいいいいいい!」
「先生、ムリ強いはダメですよ。神崎にもきっと事情があるんだから」
ヒートアップする地井川先生にそう声をかけたのは、背の高いさわやかな雰囲気の男子生徒だった。
「だが、朝倉(あさくら)……」
「神崎なしでも、勝てるチームを作りましょう。――でも、もどってくるなら、いつでも大かんげいだからな」
尊の方を見て、笑顔でそう付けくわえる朝倉さんに、尊もパッと顔を明るくして「はい!」と答える。
「夏季大会、がんばってください!」
朝倉さんは、「ありがとう」と手をあげると、先生をうながして去っていった。
「――熱いね、地井川先生」
深々とため息をつく若葉ちゃんに、「マジで」とうんざりしたようにうなずく尊。
「会うたびに、しつこくもどるように言われる……気持ちはうれしいけどなー」
指輪をはめている時に全力を出そうとすると、動物の運動能力が使われる。
尊はバスケの試合で、自分の本来の力じゃない力で勝ってしまうのはフェアじゃない、と考えて、バスケ部を休部中なんだ。
「あの背の高い人は、キャプテン?」
「そう。朝倉センパイ。すげー練習熱心で、仲間想い。あの人がいたら、きっと今度の大会も勝ちぬけるはずだ」
おお、アマノジャクの尊がこんな素直に人をほめるなんてめずらしい。 朝倉先輩のことを話しだすと、心なしか目がキラキラしてるし……尊敬してるんだね。
「見るからにさわやかでカッコいいよね。ちょっと漣くんに似てるし♡」
わたしが少しはしゃいで言うと、とたんに尊は「は?」と、まゆをひそめた。
「アイドルなんかに似てねーし、朝倉センパイがまなみのことなんて相手にするわけねーだろ。バッカじゃねーの、この脳みそお花畑のミーハー女子」「はああああああ⁉ アイドル〈なんか〉って何⁉ アイドルはこの世に幸福をもたらす素晴らしく尊い存在だし、漣くんはルックスがいいのはもちろんだけど歌もダンスも演技も上手で誠実で努力家で気づかい上手で知れば知るほどカッコいい最高のマックスレベルを更新しつづける最強で無敵の大スターなんだから!」
「うわ、オタクの早口、キモ」
「無礼のカタマリか⁉ 口悪サイテー男に言われるスジ合いないよ!」
「まなみが身のほど知らずのハジ知らずだから」
「尊こそレイギ知らずで天井知らずに性格悪すぎて信じられない」
「二人とも、そろそろ行かないと朝のホームルーム始まるよ……」
「先行くぞ」
若葉ちゃんになだめられ、行成はさっさと歩きだす。 尊もべー、と舌を出してから、行成のあとを追った。
「マジでなんなの、尊! ちょっと先輩のことをカッコいいって言っただけだよ? べつに付きあいたいとかそんなつもりじゃないのに、あんな言い方……ほんとムカつく!」
「うん、今のは尊が悪いね。思春期(ししゅんき)とはいえ、やっかいだ」
苦笑いする若葉ちゃん。
「思春期? あ、反抗期ってこと?」
「まあ、そんな感じ」
「こういう時、となりのクラスで良かったと思うよ。あいつの顔が見えるだけで絶対むしゃくしゃしちゃうもん」
教室に入って、若葉ちゃんにそう言うと、「あー」とビミョーな反応がかえってきた。
「でもまなみ、今日の四時間目の家庭科……」
若葉ちゃんの言葉に、そういえば! とショックを受ける。
二クラス合同の、調理実習だ――。
3 若葉ちゃんの意外な一面
調理実習室に行くと、あらかじめ希望を出していたペアごとに、席がふり分けられていた。
わたしは若葉ちゃんとペアで、真ん中の一番後ろの作業台……だったんだけど、となりがよりによって。
「ゲ……」
「朝方ぶり」
わたしたちを見てバツが悪そうに顔をしかめる尊と、無表情で手をあげる行成のペア⁉
こんなときに、間が悪いよ~。
「今日はお伝えしていたように、二人一組でピーマンの肉づめと、野菜スープを作ってください。アレンジも自由です。それでは、スタート!」
先生が合図を出した直後、ぐう、と小さくおなかが鳴る音がした。
一瞬わたし? と思ったけど、すぐとなりで若葉ちゃんがほおを染めて、おなかを押さえる。
「ごめん。なんか、最近大食いになった気がする……ハムスター体質?」
「あっ、わかる。わたしも、急に猫舌になったかもって思ってたよ。これも指輪の影響か」
声をひそめて話しながら、ポンと両手をたたいた。
「あと最近、やたら眠くてさ~。やっぱこれも猫体質?」
「まなみのグータラは元からだろ」
すかさず尊にからかうように言われて、わたしはムッとにらみつけてから、プイッと顔をそらした。もう、口もききたくない!
「俺が辛党なのも指輪の影響か」
淡々と、行成が言う。たしかに行成はかなりの辛党だけど……?
「それも元から……待て、タカって辛党なのか?」
「トウガラシがあるだろ」
「あっ、『タカの爪』! って名前だけじゃん」
二人の会話にふふっと笑いそうになって、あわてて顔を引きしめた。
ダメダメ、まだわたしは怒ってるんだから!
「若葉ちゃん、今日は尊たちよりう~んとおいしい料理を作ろうね!」
「う、うん……ちなみに、まなみの得意料理は?」
「え。えーと……猫まんま?」
わたしの答えに、ガックリと首をたらす若葉ちゃん。
「でも、食べるの大好きだし、『好きこそものの上手なれ』っていうでしょ⁉ きっと料理の才能あると思うんだ! 今日もとっておきのレシピを考えてきたよ!」
「ほうほう、どんな?」
「ピーマンってちょっと苦みがあるでしょ? それをごまかすために、さとうやハチミツを多めに入れて、スイーツ風の肉づめにするの! フルーツを入れるのもオシャレかもと思って、パイナップルやみかんのカンヅメや、トッピング用に生クリームも買ってきたよ」
「オッケー、まなみ。落ちつこうか」
ウキウキとふくろから材料を出そうとするわたしに、若葉ちゃんがストップをかける。
「まなみの新しいことにチャレンジしようって気持ちは、ステキだと思う。でも、残念ながら私も料理は初心者なんだ。あまりにも大たんなレシピは、今回は封印しよう。とんでもないものを召喚してしまう予感しかない」
「そうか~。わかった」
わたしがうなずくと、若葉ちゃんはホッとしたようにため息をもらした。
「じゃあ、野菜を切っていこうか」
「おー!」
若葉ちゃんはピーマンを洗ってまな板の上におくと、包丁を持って、ふうっと深呼吸。
「斬(ざん)!」
ナゾのかけ声とともに、ピーマンをななめに真っ二つにした。
「「「斬(ざん)⁉」」」
ビックリするわたしたちに、「刃物を持ったら、つい……」と、てれたように笑う若葉ちゃん。
それから、ななめに切れたピーマンを見てまゆをひそめる。
「けさ斬(ぎ)りになっちゃった。真っ向斬りしなきゃだよね。斬(ざん)! 斬! 斬!」
『けさ斬り』も『真っ向斬(ぎ)り』も野菜の切り方じゃないよね⁉
若葉ちゃん、包丁を持つと剣士になっちゃう……⁉
「ダメだ……どうしてもけさ斬りしかできない。未熟者でめんぼくない!」
口調もビミョウに変わったような……。
そして、意外に手先は不器用みたい。若葉ちゃんにこんな一面が。
「ド、ドンマイ、若葉ちゃん! どんな形でも肉がつめられればだいじょうぶだよ!」
「ありがとう。じゃあ、敵のハラワタをとりのぞくね」
「ピーマンのたねとワタね⁉ たとえがコワイよ!」
ボケたおす若葉ちゃんに、いつもと立場逆転でツッコんでから、わたしは玉ねぎのみじん切りにとりかかる。
「玉ねぎって切るとなみだが出ちゃうよね」
「ふっふっふ、そこで今日は秘密兵器を用意してきたのです! ぽわぽわぽわぽわ~♪」
わたしは四次元ポケットからひみつ道具を出すような調子で、カバンからそれを取りだす。
「♪テッテレー。水中メガネ~!」
「アホだ!」
ぶっと尊がふき出す声が聞こえたけど、ムシだよ、ムシ!
わたしは自信満々で、エプロン姿に水中メガネをつける。
……心なしか、まわりがざわついて、ちょっと人目が気にならないこともないけど、大事なのは実用性。
完ぺきに目をガードして、いざ!
ザク……ザク……ザク…………。
「……見えにくい! しかもやっぱり目にしみるんだけど⁉ 目をガードしてるのになんでー⁉」
「鼻からもシゲキ成分が入るんだろ」
冷静な行成の分析に、実用性ゼロだった! とショックを受けながら水中メガネをはずして、なみだをぬぐう。
「ギャー! 手を洗うのわすれてた! 痛い痛いよけい痛い!」
「アホすぎる……!」
(著者から注:これを読んでるよい子のみんなは、くれぐれも玉ねぎを切ったばかりの手で目をさわらないようにしてください)
「うう、ひどい目にあった……! あっ、もしかして猫や犬に玉ねぎって毒だから、その影響でこんなにしみるのかな⁉」
「時間かけすぎなだけだろ。成分がしみてくる前に切りおえればいいんだよ」
尊はあきれたようにそう言ってから、トントントントンとすばやく玉ねぎをきざみはじめた。
「えっ、神崎くん、うま!」
「料理もできるんだ⁉ マジ神」
そのあざやかな手並みに、まわりからおどろきと称賛の声があがる。
尊は母子家庭だから、ふだんからお姉さんと家事をしていて、料理も慣れてるんだよね。
くっ、このままじゃ、尊ペアと大きな差が……いや、たしか行成は全然料理ダメなはず!
小六の時の調理実習は行成と同じグループだったけど、包丁使いがあぶなっかしくてケガしちゃいそうだった。
だから、「もう行成はお茶だけ用意して」ってたのんで、お茶係をやってもらったんだ。
家が茶道の家元だから、お茶はさすがにめちゃくちゃ美味しかったけど――。
そう思いながら行成の方を見ると、くるくると器用に包丁でジャガイモの皮をむいてたから、ビックリした。
「行成⁉ 料理はからっきしだったはずじゃ……」
「そうだったか?」
行成はすずしい顔でとぼけたけど、尊がニヤッと笑ってタネ明かしする。
「前の調理実習の後、くやしがって特訓したんだよ、行成」
なるほど、行成の負けずぎらいがこんなところでも……。
感心したけど、尊と目が合って、わたしはまたプイッと顔をそらした。
4 尊のスペシャル・クッキング
ひーひー言いながら、なんとか玉ねぎのみじん切りを終えるわたし。
「次はひき肉と玉ねぎをねって、肉だねを作るんだよね、若葉ちゃん」
「……その前にひとつ相談があるんだけど、いい?」
「相談? なに?」
「このごろ、光太郎(こうたろう)のスキキライがはげしくてね。よくご飯を残しちゃうんだけど、特にニンジンは絶対食べてくれないの」
光太郎くんは、若葉ちゃんの五つ下の弟だ。
「だから私、光太郎が食べてくれるようなニンジン料理を作れるようになりたいんだ。光太郎はニンジン入ってるってわかると手をつけないから、ふつうに切ってスープに入れると食べないと思う。でも、ピーマンの肉づめは好きだから、ニンジンをみじん切りにして肉だねにまぜたら食べてくれるかもと思って」
「なるほど! つまり、このニンジンはスープじゃなくて、ピーマンの肉づめに入れたいってことだね」
野菜スープの材料にするつもりで用意していたニンジンを持って、わたしがそう言うと、若葉ちゃんはうなずいた。
「うん。試しに作ってみたくて……いいかな、まなみ?」
「もちろん!」
ありがとう、と笑顔になる若葉ちゃん。チーム㋐でもお姉ちゃんポジションだけど、弟のために料理を作りたいなんて、若葉ちゃん、本当にいいお姉ちゃんだな~。
若葉ちゃんはニンジンを洗ってまな板の上におくと、包丁を持って、ふうっと深呼吸。
あ、なんか、見おぼえある光景。
「斬(ざん)! 斬! 斬! 斬! 斬!」
気合のかけ声とともに、ダイナミックに包丁を何度もふりおろす若葉ちゃん。
やがて、ひたいの汗を手のこうでぬぐいながら、
「できた! みじん切り!」
「でか……カレー用?」
わたしが正直な感想をのべると、若葉ちゃんは「ダメかー」とその場にくずおれた。
ニンジンは乱切りサイズで、しかもやっぱり、切り口は全部ななめになっている……。
「うう、けさ斬りしかできないなんて、格闘ゲームでも弱キャラすぎる……!」
「上級者のしばりプレイみたいだな」
頭をかかえる若葉ちゃんに、ぼそりとツッコむ行成。
「こっちはド素人(しろうと)ですけどね⁉」
うーん、若葉ちゃん、どうしても包丁で細かく切るのはむずかしいみたいだ。
このままじゃせっかくの計画が失敗に終わっちゃう。
でも、家でひとりで作れるようになりたいなら、私が手伝ったら意味ないだろうし……そもそもみじん切りができないなら、ふつうのピーマンの肉づめもムリなんじゃ……。
「――料理の素人でもかんたんに作れるニンジンレシピ、教えようか?」
こまっていたら、そんな尊の声がした。
「ほんと⁉ お願い!」
わたしがすぐにとびつくと、尊は意表をつかれたように目をみはった。
あ、怒ってたんだよね、わたし……でも。
「若葉ちゃんを助けてあげて。そしたら、朝のアレはなかったことにする」
しょんぼりしていた若葉ちゃんが、みるみるほおをほころばせる。
「まなみ……ありがとう。尊、そのレシピ、教えてくれる?」
「まかせとけ!」
尊も笑みを浮かべて、たのもしくうなずいた。
「若葉、ひとまずニンジンはおいといて、玉ねぎを半分、切ってくれ。ざく切りでいい」
「わかった。斬! 斬! 斬! 斬!」
野菜スープ用に残していた玉ねぎに、ようしゃなく包丁をふりおろす若葉ちゃん。
「オーケー。じゃあ、さっきのニンジンと玉ねぎを耐熱ボウルに入れて、ラップをしてレンジで五分加熱」
若葉ちゃんが言われたとおりにレンチンしている間に、尊は調理実習室の後ろのたなから、何かを持ってきた。――ミキサー?
「まなみ、これをサッと洗って、組みたてて」
「りょうかいです!」
「このミキサーに、レンチンしてやわらかくなったニンジンと玉ねぎ、牛乳、コンソメの素を入れる。牛乳はオレたちがスープのアレンジ用に持ってきたのを使えばいい。あっ、まなみ、たしか生クリーム持ってきてたよな?」
「あるよ!」
ピーマンの肉づめをスイーツ風にアレンジしようと思って、用意してた生クリーム。
「せっかくだから、これも入れよう。牛乳だけでも作れるけど、生クリームを入れるとコクが出るんだ。ただ、全部入れると味が重たくなるから、牛乳の三分の一くらいの量な」
尊の説明をきいて、若葉ちゃんが材料をミキサーに入れると、最後にスイッチをオン。
ぎゅいーん、とシェイクが始まる。
「野菜のかたまりがなくなって、なめらかになるまで混ぜること。完全に混ざったら、中身をなべにうつして、バターを入れて火にかける。沸騰させないように気をつけて、ひと煮たちしたら、塩コショウで味をととのえる」
できあがったキレイなオレンジ色のスープを見て、思わずグーとおなかが鳴った。
「ニンジンぎらいにもオススメの、ニンジンのポタージュ、いっちょあがり」
尊が歌うような調子で、言う。
「ほんとにかんたん! おいしそう~」
はしゃぐわたしのとなりで、若葉ちゃんが小皿にスープをよそって、味見をする。
「……おいしい! ニンジンのくさみもないし、これなら光太郎も喜んで食べてくれそう」
パアッと顔をかがやかせる若葉ちゃん。よかった!
「ありがとう、尊」
満面の笑みでお礼を言う若葉ちゃんに、尊もうれしそうに「ああ」とうなずいた。
その後、ピーマンの肉づめも(少しだけこげちゃったけど)ちゃんと焼けて、みごと料理が完成した。ばんざーい!
「そっちはちゃんとできた? 時間足りなくなったりしてない?」
わたしたちに教えていたせいで尊ペアがおくれてたら悪いな、と思ったけど尊は、「トーゼン」と胸をはった。
「オレの説明中も行成がスープを作ってたし、そもそもまなみたちとは手際がちがうって」
まーたからかうようなこと言う……。
でもじっさい、料理する尊の動きはムダがないし、じょうきょうに合わせたレシピをパッと思いつくなんてすごいよね。
――と、見直していたのに。
「よし、できた!」
尊がふたを開けたフライパンの中を見て、目をうたがった。
「え? これ……ピーマンの肉づめ? ピーマンどこ?」
「使ってない。アレンジ料理『ピーマンの肉づめ ~ピーマンぬき』だ!」
悪びれなく言いきる尊。
そういえばこいつ、ピーマン苦手だったな⁉
「ピーマンぎらいでも食べられるピーマン料理を作りなよ!」
「ピーマンは敵だ。この先も和解はできない」
「えらそうに言うことか! 行成はこれでいいの?」
「他で栄養をとれば、ムリにきらいなものを食べる必要はないんじゃないか」
身もふたもないことを言う行成に、若葉ちゃんがつぶやく。
「わ、私の苦労、全否定……?」
この男子コンビ、マイペースすぎるでしょ‼
ピーマンぬきだと、もはやただの煮こみハンバーグだよ……いやでもおいしそうだな。
いい感じについた焼き目、てりてりに光るソース、食欲をそそる肉汁と香辛料のスパイシーな香り……じゅるり。
「やっぱたらしてるぞ、ヨダレ」
行成に言われて、あわてて口元をぬぐう。
「こ、これは、あまりにおいしそうだから、つい」
思わず赤くなって言いわけしてたら、「まなみ」と尊に呼ばれた。
「肉づめ、多めに焼いたから、食べるか?」
「へ?」
「ニンジンレシピくらい、べつに条件なしでも教えたし。そもそも、あれは若葉に教えたもので、まなみにはカンケーないだろ。だから、その……」
尊はぶっちょう面で、ぼそりと一言。
「これで、朝のはチャラな」
あっ、暴言のおわびにこの肉づめ(つめてないけど)、くれるってこと⁉
尊も反省したのかな……まったく、素直じゃないなあ。
「わかった! それじゃ、いただきまーす」
お皿にもるのが待ちきれず、わたしはフライパンから一つ、ひょいパクッとほおばった。
行成が「あ」とつぶやく。
「それは――」
瞬間、とんでもないシゲキが舌を焼き、カアーッと体が熱くなる!
かかかかか辛~~~~~~~~!
ショックでボン! と猫に変身するわたし。
「辛い辛い辛い! 水! 水ちょうだい!」
「俺専用に作った激辛のやつを食べたな」
「あっ、そういえばいくつか辛いの交ぜるって言ってたか、行成」
「だいじょうぶ? はい、水!」
先に言ってよ~~とうらみながら、わたしは若葉ちゃんが出してくれた皿の水をペロペロなめる。
あ~、舌が痛いよ~! ヒリヒリする~!
「あら? 斉賀さんは?」
「やべ、かくれろ、まなみ」
先生が近づいてくる気配がして、あわてて机の下にもぐりこんだ。
「お、おなかの調子が悪いって言って、今さっきトイレに行きました」
若葉ちゃん、今日もフォローありがとう……。
その後、わたしはスキを見て調理実習室をぬけだして、変身が解けたころ、もどってきた。
幸い、変身の瞬間は他の生徒には見られなかったみたい。
みんなもう食事を終えていて、わたしのぶんは若葉ちゃんがちゃんと残してくれてたけど――
「……冷めてる……」
ずーん、と肩を落とすわたしに、「ドンマイ」と尊が苦笑いする。
「猫舌になったんだろ? ちょうどよかったんじゃね?」
「よくない‼」
ちゃんと出来たてのあったかい料理が食べたかったー。
うらむよ、尊、行成……!
2章 応援団と見えない卵
1 ボスバーガーでハッピータイム
「まなみ、若葉。今日ボスバーガー行かねえ? 新作シェイク出たってさ」
帰りの下駄箱で、尊に声をかけられた。
「あっ、『傾国(けいこく)のメロメロメロンシェイク』でしょ⁉ 飲みたいって思ってた」
ウキウキと答えてから、ハッと息を飲む。
「もしかして、わたしのおごり?」
指輪を見つけてまきぞえにしちゃったおわびに、一年分の新作シェイクをおごれって前に尊に言われたんだよね。尊はニンマリとほおをゆるめて、
「もちろん! ……と言いたいとこだけど、今日はオレがメーワクかけたからチャラにしよう。行成も行くって」
「よかった! 若葉ちゃんはどう?」
「うん、行こうかな」
ボスバーガーに着いて、新作シェイクと、フライドポテトも食べたいな……と思ったけど、おこづかいがあまり残ってなかった。
今日はシェイクだけにするかー。
注文したものを受けとってみんなで席に着くと、行成がわたしのトレーにポテトのLを置いた。
「調理実習の、イシャ料」
「くれるの⁉ わーい。じゃあみんなで食べよう」
もしかして行成、わたしがポテトを欲しそうにしてたの気づいたのかな……相変わらずまわりをよく見てる。
メロン味のシェイクはさわやかで香りがよくて、すごくおいしい!
ポテトも外はカリッとしてるのに中はホクホクで、手が止まらない~。
「シェイクうまっ」
尊も目を輝かせてる……甘党なんだよね。
そして尊は、あーんと大きく口を開けると、とがった犬歯が目立つ歯で、ガブリとてりやきバーガーにかぶりついた。
ボスバーガーは尊が大好きなファーストフード店で、尊は来るたびに必ずてりやきバーガーとシェイクを注文する。
食べ物もスポーツ選手もアーティストも、一度好きになったらそればっかり、ずーっと一途。そういうところは、もともと犬っぽいかも。
「行成が飲んでるのは抹茶シェイクだろ。それ、けっこー苦くね?」
「悪くない」
「若葉ちゃんは何をたのんだの?」
「ナッツソースのアボカドチーズバーガー……おなか空いちゃって」
ちょっとはずかしそうにそう言ってから、大きなハンバーガーにパクリとかぶりつく若葉ちゃん。小さな口をいっぱいにして、ほっぺをふくらませてモグモグしてる……かわいいなあ。
「ハンバーガーもすごくおいしそう」
「よかったら味見する?」
「やったー。じゃあ若葉ちゃんも『傾国(けいこく)のメロメロメロンシェイク』をどうぞ」
おたがいに味見して、おいしいねとほほ笑みあう。
「ところで傾国ってどういう意味だろ?」
「国を傾けるくらいの絶世の美女をさす言葉……だよね、行成?」
「ああ。国王がその女に夢中になるあまり、政治をおろそかにして、国が滅ぶような美女をいう。このシェイクの場合、国が傾(かたむ)くくらい魅力的、みたいな意味合いか」
「すげー、大きく出たな。たしかにうまいけど」
「うん! もう何杯でもおかわりしたい」
「太るぞ。まなみにはデブ注意の『警告(けいこく)のメロンシェイク』だな」
「尊はすぐそういうこと言う!」
そんな感じでだべっていたら、ふと、若葉ちゃんが言った。
「そういえば、もうすぐ体育祭だね」
向かいに座ってた尊が「マジ⁉」と身を乗りだす。
「うん、年間予定表に書いてあったよ。明日のホームルームで、係や競技を決めるんじゃない?」
体育祭か~。毎年、尊が大活躍するイベントだ。
小学校の時は必ずリレーの選手で、一昨年なんてアンカーで二人ぬきしてたっけ。
でも……。
「……今年は指輪のことがあるよね。どうする?」
「……んー……」
わたしがためらいながらたずねると、尊は腕を組んで、迷うように瞳をゆらした。
やっぱり、自分の能力じゃない指輪の力で勝つのはフェアじゃない、と思うのかな?
「体育祭は、祭りだろ」
抹茶シェイクをすすってから、何気ない口調でそう言ったのは行成だ。
「ズルとか考えず、全力で楽しんだらいいんじゃないか?」
「たしかに! 勝ち負けはあっても、年に一回かぎりのものだしね」
「同感。ただ、あんまり人間ばなれした能力を見せちゃうのはキケンだから、そのへんがバレにくそうな競技に出場するのがいいかも」
わたしと若葉ちゃんも賛成すると、尊は目をパチパチしてから、ニッと口元をゆるめた。
「……そうだな! よし、なんか、燃えてきたー!」
声をはずませて、ぐっとガッツポーズをする尊がうれしそうで、わたしもうれしかった。
若葉ちゃんの予想どおり、翌日のホームルームで体育祭についての話し合いが行われて、尊は体育祭実行委員と、応援団にも立候補した。
以来、毎日準備でいそがしそうだ。
「――あーあ、今日は早く帰って、昨日の漣くんのドラマ見かえそうと思ってたのに……」
小テストの結果が悪くて、九十点とれるまでくりかえしテストをするという英語の補習がようやく終わった放課後。
わたしがひとりごとを言いながら校門に向かっていたら、校庭で応援団が練習をしていた。
ホイッスルの音に合わせて、空手の型のような演舞をやっている。
尊は……いた! 真剣な表情だけど、生き生きとして見えた。
こんな時間までがんばってるなあ……。
なんとなくながめていたら、はあーっと近くから大きなため息が聞こえた。
「体育祭なんて……ほろべばいいのに……」
暗いまなざしでそうつぶやくのは、同じクラスのメガネ女子、梨田希望(なしだ のぞみ)ちゃん。
「体育祭……それは運動神経にめぐまれた選ばれし者たちの残酷なる宴……。私のようなトロくさい陰キャはチームの足を引っぱって、ハジとなみだにまみれるだけの地獄のXデー……」
「の、希望ちゃん。運動キライなんだ?」
「斉賀まなみ……あなたのような日向にいる者には、この苦しみは理解できないわ……」
「わたしもドンくさいからリレーでこけて、メーワクかけちゃったことあるよ。でも、体育祭はお祭りだしさ、じっさいの勝ち負けよりも、楽しんだもの勝ちだと思う!」
わたしの主張に、希望ちゃんは、「ふっ」と皮肉っぽく口元をゆがめた。
「表向きはキレイごとを言っても、裏では私のことバカにして笑ってるのよ……!」
「そんなことないって」
「のろまな私の醜態を見て、せいぜい楽しむがいいわ……陽キャどもの祝祭のイケニエにささげられしアワレな子羊、それが私……」
ゆううつそうにぼやきながら、去っていく希望ちゃん。
名前は希望なのに、めっちゃ悲観的だ……。
あぜんと見送っていたら、練習が終わったのか、応援団の人たちがこっちの方にわらわらとやってきた。
あ、そこの木にみんな荷物を置いてたんだね。
「尊、おつかれさま!」
「おー、のどかわいたー」
カバンから水とうを出して、ゴクゴクとお茶を飲む尊に近づいたところで、ふと、そばの木の根元に、何かが落ちているのに気づいた。
直後、近くにきた男子応援団員がそれをふみそうになったから、わたしはとっさに声をあげる。
「待って!」
団員はビクッと動きを止め、わたしはすばやくその「何か」を、そっと拾いあげる。
毒々しい紫に黒いマダラもようの……卵……?
大きさは、ピンポン玉くらいだ。
「どうした、まなみ?」
「これが落ちてたんだけど、何かの卵っぽいよね」
尊にわたすと、尊もナゾの卵をいろんな角度からながめて、「だな」とうなずいた。
「なんかブキミな色だよね……」
そう言いながら、わたしが顔をあげると、さっきの応援団員が、キョトンとした顔でこちらを見ていた。
「なあ、これ、なんの卵かわかるか?」
尊がたずねると、団員はまゆをひそめて言う。
「……どれ?」
え?
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まなみ、尊、若葉、行成は動物に変身できる! そのおかげで、笑いもトラブルもたえない生活の中、まなみたちにしか『見えない卵』が学校で見つかり、まわりの生徒が意識を失う事件が発生! ナゾが解けないままむかえた学校一のイベント・体育祭。尊の応援団の活躍、爆笑だらけの障害物リレー、男子からの指名に超ドキドキの借り人競走と大もりあがり! ところが、突然嵐が起きて体育祭が中止の危機に! 卵に関係する化け鳥のしわざ? 4人は強敵に立ち向かう! 無敵のアクション&コメディ! シリーズ第2弾!