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♦️動きだした巨大な敵、タキオン! その野望をはばむため
怪盗レッドと、怪盗ファンタジスタがそれぞれ走りだす!
なんと、1冊ぶんまるごとぜんぶ読めちゃう!
3月31日までの期間限定だからお早めに
そして、3月12日発売の『怪盗レッド㉗』を、もっとカンペキに楽しんじゃおう‼
第2回公開♦️まるごと全文ためし読み連載
『怪盗レッド㉗ 2つの怪盗チーム、翔ける☆の巻』
何者かに呼びだされた真夜中の廃ビルで、
アスカが発見したのは、傷だらけのエメラ。
彼女が発したSOSとは、いったいなんなのか――!?
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今回の巻に登場するのは、このメンバー!胸がおどる!!
8 命がけの願い
エレベーターで、下の階におりていく。
わたしたちは、はじめて降りるフロアだ。
エレベーターから出ると、まったくちがう風景にわたしはおどろく。
「ここって……えっ、病院?」
真っ白な壁に、床。
それに、消毒液のにおい。
言われなければ、病院としか思えないような景色が広がっている。
「こんなフロアがあったんだ」
「表だっては病院にいけない者が多いからな。その治療のためだ。医師たちも常においている」
アルフォンスさんはそう言って、車椅子を先に進める。
ラドロに所属しているのは、泥棒や犯罪者たち──どんな傷や病気であっても、公の病院にかかるのはむずかしい人もいるんだろうな。
あらためて、ラドロが泥棒の組織なんだってことを、思い知るよ。
「こちらです」
案内役の黒服の男が、病室のドアを示した。
ドアの両わきには、がっちりとした体格の黒服の男が2人立っている。
守るためというよりは、エメラが逃げだしたり、なにかしたときのための監視役だと思う。
それでも、エメラの実力なら、傷を負っていなければ、この2人をどうにかして突破するぐらいは、難なくやってしまうだろう。
もちろん、アルフォンスさんだって、それがわかっていて配備しているんだろうけど。
黒服の男が先に立って、病室のドアを開ける。
アルフォンスさんの車椅子につづいて、わたしとケイも病室の中に入る。
室内には、ベッドが1つ。
そこに、エメラが横になっていた。
つねにマスクをしていたエメラの素顔ははじめて見るけど、まるでモデルのように整った顔だちだ。
わたしのほうは、口もとだけおおうように、怪盗レッドのコスチュームを顔の部分だけ身に着けている。
ケイは、白いマスクだけ。
「怪盗レッドか」
エメラが、わたしたちに気づいたらしく、閉じていた目を開ける。
「ええ。わたしに話があるってきいたけど」
声色を変えながらこたえる。
だけど……。
「偽らなくていい、おまえの正体には気づいている。──紅月飛鳥」
エメラは、まっすぐにわたしを見つめたまま、あっさりと名前を言った。
「……そんな気はしてたけど」
わたしはスカーフを、外す。
ズバリと正体を言い当てられたのは、はじめて。
もっとあせるかと思ったけど、そうでもなかった。
自分でもおどろくぐらい、動揺しなかったんだ。
ケイからも、メールアドレスに連絡をとってきたあたりで、正体に近づかれているかもって予告されていたんだよね。
それに、今のエメラの雰囲気が、まるでつきものが落ちたように、しずかだからかもしれない。
でも……。
「どうして、わたしだってわかったの?」
わたしが紅月アスカだってこと、決定的な場面は見せてないはずだよね。
「君がアリー様の友人だからだ。そうでなければ、気づかなかっただろう」
えっ……!
ここで、アリー先輩の名前が出てくるなんて……!
心がざわつくのをおさえこみながら、エメラを見る。
エメラは弱々しい声で言った。
「────私はもともと、緋笠アリーことアリーヤ・ガーネットの、専属の護衛だ」
「エメラが、アリー先輩の!?」
たしかに、エメラがアリー先輩のそばにいることは多かった。
アリー先輩が、自分の正体を語ったときも、いっしょにいたっけ。
「それは、タキオン幹部としての役割でか?」
ケイがきくと。
「順序がちがう。私は、そもそもアリーヤ様を護るための者だった。それを引きはなすために、幹部に取り立てられた」
どういうこと!?
引きはなす、って?
ぜんぜん話が見えてこない。
「事情説明はあとにさせてくれ。先に重要なことを伝える。アリーヤ様がさらわれた。わが身のことは、どうでもかまわない────どうかアリーヤ様を……お嬢様を、救ってほしい」
エメラはそう言うと、体を起こしてふかぶかと頭を下げる。
ちょっ……!
「ちょっと待って! アリー先輩がさらわれたってどういうこと? いったいだれが!」
わたしは、おもわずエメラにむかって食いつくように身を乗りだす。
ケイがわたしをそっと押しとどめる。
エメラは、くやしげにゆがんだ顔をあげて、わたしを見た。
「犯人は、タキオンの幹部、ニック・アークライト。やつが、アリーヤ様を連れ去った」
9 アリー先輩のメッセージ!?
「ニックって、なんでアリー先輩を……ノアの双子の妹でしょ。まさか、ノアの指示なの!?」
わたしは、エメラにつめよる。
「落ちつけ、アスカ。相手はケガ人だ」
そんなわたしの肩を、ケイがおさえる。
わたしは、くちびるをきゅっと結んで、エメラからはなれる。
「……ごめん」
わたしは、あやまる。
「かまわない」
エメラは、気にした様子もない。
アリー先輩は、タキオンのボス、ノア・ガーネットの妹。
そんな立場の先輩を、いくら幹部のニックだからって、連れ去れる!?
そんな命令をできるとしたら、それはもう、ノアしかいないでしょ!
「理由を問うても、ニックは答えようとしなかった。抵抗したが、連れていたファルコンと藤堂伊織を相手に、なすすべもなかった」
エメラは、そのときのことを思いだしたのか、くやしそうに顔をゆがめた。
ファルコンと伊織を連れてきた……!
あの2人を相手に、たった1人でたちむかえる人間なんて、思いうかばない。
ってことは、ニックたちは計画犯的な犯行だったんだ。
エメラが抵抗することもわかっていて、アリー先輩を連れていったってこと……!
「なにが起きたかはわかった。だが、どうして怪盗レッドを呼びだした? たよった?」
アルフォンスさんが、するどい目でエメラを見る。
すると、エメラが思いがけないことを言ったんだ。
「アリーヤ様から言われていた。──『自分の身になにかあったら、怪盗レッドをたよって』と」
えっ……!
アリー先輩がそんなことを……!?
「ま、まさか……アリー先輩もわたしの正体を知っていたの……!?」
わたしの心臓の音が、全力疾走中のように速くなる。
さっき、エメラに正体を知られていたと知ったときは、落ちついていられたのに。
ふるえる手を、ぎゅっとにぎる。
「いや、アリーヤ様はなにも知らない。あなたの正体は、私が独自に調べたことだ」
エメラの言葉をきいて、わたしは大きく息をはきだす。
「でも、どうして? アリー先輩に報告しなかったの?」
「必要ない。アリーヤ様は、おまえを信用しておられた。おまえがアリーヤ様に害をなすつもりがないこともわかった。そして……私はアリーヤ様に、ふつうの少女として学園生活をすごしていただきたかった。だからだ」
そう話すエメラからは、本心から、アリー先輩を思いやっているのが伝わってくる。
アリー先輩の護衛を長くつとめていたという話は、ウソじゃないみたい。
「アリー先輩は……ぶじだと思う?」
わたしは、ふるえる声で、エメラにきく。
たしかめるのは怖いけど、意見をきいておきたかった。
「おそらく。お命をどうにかするつもりなら、連れ去ったりはしないはずだ。それに、ニックたちはアリーヤ様を、少なくとも丁重にはあつかっていた」
「そっか……」
わたしは、少し、ほっと息をつく。
だからといって安心できるわけじゃないし、ニックたちのことはゆるせないけど。
「──アリーがどこに連れていかれたか。情報はあるか」
簡潔に、ケイが質問する。
「連れていかれた場所は、わからない。ただ、今タキオンの幹部は、日本に集まっている」
えっ……!?
「ど、どうして!?」
「重大な会議を行うため──ということだ。くわしくはわからない。だが、その場にアリーヤ様も連れていかれる可能性がある」
「ふむ…………その情報は本当だったか」
アルフォンスさんは、なにかつかんでいたらしい。
「なにか知ってるの?」
「日本にタキオンの幹部が集結する。そういう情報をつかんではいた。だが、目的も場所もわかっていない」
エメラが答える。
「私も、幹部が集められる理由は知らない。ただ、召集したのがニックらしいと聞いている」
「ニックが……!?」
タキオンの幹部の中でも、とくに中心的な存在。
それがニック・アークライト。
戦闘能力がファルコンや伊織ほど、ぬきんでて強いわけではない。
だけど、一瞬のためらいもなく味方だった恭也のことを撃ったり、花里家の襲撃を指揮したり、ファルコンたちとはちがう、底知れない怖さがある人だ。
「悪意の色が濃い」……って感じかな。
ニックと対峙すると、いつもそういうものを強く感じるんだよね。
「でも、どうして日本に? タキオンはヨーロッパのほうが、影響力が大きいんでしょ?」
わざわざ、日本に集まるのはなんでだろう?
アリー先輩を連れ去るため?
でも、そのためだけに幹部まで集めるかな。
エメラのことだって、あのファルコンなら、1人だけでだって対応できたと思うし、伊織とファルコンを2人そろえる必要はなかったんじゃないかな。
「影響力が少ない場所だから──かもしれない。そのほうが都合がいい場合もある」
ケイが答える。
「そんなことってあるの?」
「ありえる、という話だ。日本の警察や国家機関は、タキオンに対する警戒心がうすいから」
「そっちならわかるけど……」
たしかに、日本は平和な国だからね。
それだって、幹部がそろうなら警戒はされてそうだけど……ほかの国とは事情がちがうのかも。
首をひねるわたしをおいて、アルフォンスさんが、エメラに話しかける。
「それで、エメラよ。それをわれわれに話して、おぬしはどうするつもりだ?」
エメラがどうしたいのか。
なんとなく、予想がつくけど……。
「アリーヤ様を助けにいく。しかし、1人ではむりだ。だから────助力を願いたい」
エメラがもう一度、ベッドの上で深く頭を下げる。
金色の髪が、ぱさりと布団の上に落ちた。
その髪が、ふるえている。
「顔をあげて」
わたしの言葉に、エメラが顔をあげる。
「わたしたちにたのんでるのは、アリー先輩から言われてたから?」
「それだけじゃない。おまえたちとは何度も戦って、実力も知っている。力を借りるなら、おまえたちしかいない」
エメラは、なにも取りつくろうつもりがないみたい。
こんな目で見つめられて、断るなんてできないよ。
──最初から、断るつもりもないけどね。
「敵から実力を認められて、うれしい……って言うべきなのかな。でも、アリー先輩を助けにいくっていう意志は、わたしも同じ」
アリー先輩がさらわれたって、きいたときから覚悟は決まっていた。
それだけは、絶対にゆずれない。
ケイに視線をむけて確認するまでもないよ。
わたしがそう考えるってこと、ケイが一番わかってるはずだから。
確認するべきは、わたしが、エメラと協力していいのかどうか──だ。
わたしはそこでケイを見る。
すると、ケイもわたしを見て、うなずき返してくれた。
「わかった。協力しよう」
ケイが、はっきりと言う。
タキオンと協力することなんて、絶対にありえないと思っていた。
でも、これはアリー先輩がつないでくれたもの。
エメラのたった1つの望みは、そのアリー先輩を助けること。
エメラが、わたしたちの実力をよく知っているように、わたしだってエメラの実力を知ってる。
手を組むなら、これ以上なく心強いってこと!
「レッド、信用するのか? エメラの言っていることが、すべて作り話で、おまえたちをワナにかけるためのものかもしれんぞ」
アルフォンスさんが、ゆさぶるように言ってくる。
その可能性は、あるかもね。
でも、大丈夫。
今までのことを思いかえしてみると。
エメラは、アリー先輩を助ける行動を、何度もとっていた。
これまで意識したことはなかったけど……ね。
なにより、わたしの勘が言ってるんだ。
エメラは、アリー先輩を裏切らない、って。
「わたしの正体を知っているのに、大ケガまでして、こんな回りくどいことをするのは変だよ。でしょ?」
わたしがウインクしてそう言うと。
「覚悟を持って、決めたのならいい。我々も支援はしよう。どうやら、事態は大きく動きだしているようだからな」
アルフォンスさんも、わたしの答えに満足したみたい。
「タキオンが、日本でなにかをしようとしてる──か。気合いをいれないと、やばそうだね」
わたしはギュッと、拳をにぎった。
しかもそこに、アリー先輩が、いる!
10 闇オークションの招待状
ラカンテ共和国は、人口100万人ほどの小国で、おもに物流や観光などを資源としている国だ。
湿度が高く、気候は日本と似ているところが多い。
おれたちは入国すると、国境近くの町を歩いていた。
「……で? どうして、あんたがついてきてるんだ?」
マサキが、サラをジロリと見る。
「だって、今は受けてる仕事もないからヒマだし。自分が関わった仕事のゆくえも気になるじゃない?」
サラは、しれっとした顔で答える。
図太いのは、サラのいいところだ。
おれは肩をすくめて、間を取りもつ。
「そうにらむなよ、マサキ。サラは今回の件に無関係というわけでもないし、情報面でもいてくれたほうが便利だろう?」
「……わかっていますが」
おれの説明を、マサキも理解してないわけではないはずだ。
それでも口をとがらせてしまうのは、おれのまわりから危険を排除したい一心なのだろう。
少々過保護、というか……。
忠誠心が高すぎる、というのも大変だ。
お姫様じゃあるまいし、おれにそんな警戒は無用だと、理屈ではわかっているのだろうが、ときどき、感情がついていかないらしい。
まあ、そんな人の心の不合理さも、おれはおもしろいと思っているんだが。
「それで、サラ。闇オークションには、どうやって入る?」
「招待状があるはずよ」
すると、すかさずツバキが口をはさむ。
「ラカンテ共和国の闇オークションの運営は、この土地に古くからあるマフィアが行っています。完全招待制で、招待客は200人ほどいるようです。招待されるのは、表で高級品の取引がある者で、そこから誘いがくるようですね。次のオークションは3日後です」
ツバキは下調べをすませているらしく、すらすらと説明する。
「すごいわね、彼女。この短期間で、そんなことまで、よく調べられるわ」
サラが感心したように、ツバキを見ている。
「いいだろう、ツバキの情報収集能力は、たよりになるんだ」
「おそれいります」
ツバキが表情を変えずにかるく一礼する。
ただ、付き合いの長いおれには、その表情が少しだけ、てれくさそうにほころんだのがわかる。
「さて。しかし、表での取引となると、残り3日では招待状を手に入れるのはむずかしいかな?」
もう招待状は、オークションの運営側から送られているはずだ。
飛び入りで招待状を送ってもらうには、ぎりぎりすぎる。
「なら、だれかから奪いますか?」
「それはできればさけたいな。闇オークションの運営側に伝われば、警戒される」
オークション前のトラブルは、さけたいところだ。
「あっ……なら、方法があるわよ」
サラが、思いついたという顔で、両手をポンとたたいた。
「なんだい?」
「ゆずってもらいましょう。招待状」
「なんだって?」
「交渉相手に、1人心当たりがあるわ」
「穏便な方法としては、ためしてみる価値がありそうだな。サラ、教えてくれるか」
サラは、得意げな顔になると言った。
「わたしがいっしょにきて、よかったでしょう? その人の名は、ヘクター・カイエ。──昔、タキオンのボスの地位を、レオン・ガーネットと争った男よ」
11 富豪は、花を愛する
サラとおれは、2人で、ラカンテ共和国内にあるヘクター・カイエの屋敷にむかっていた。
マサキとツバキは、別行動だ。
その間に、2人には、闇オークションの調査をたのんである。
マサキたちは、おれから離れることを、だいぶごねていた。
だが、人を訪問するのに大人数はさけたほうがいいし、第一、非効率だと納得させた。
サラだけがおれと同行するとなった瞬間、マサキとツバキの視線が、じりじりとつきささっていたが……。
「わたしが紹介するんだからしかたがないじゃない」
と、当のサラはしれっとしていた。
あの2人の殺気が無視できるとは、やはりサラは大物かもしれない。
「ふむ。ここに、そのタキオンの先代ボスの座を争った人物がいる……?」
たどりついたのは、大きな塀で囲まれた屋敷だった。
門の前には、胸の前で銃をかまえた警備の人間が立っている。
日本では見慣れないが、海外の資産家の屋敷に警備スタッフがいるのは、めずらしくない。
銃の所持がゆるされている国だから、警備スタッフが持っているのも、とうぜんだ。
しかも……。
見る限り、あの警備スタッフは、かなり腕が立ちそうだ。
おれくらいになると、見れば、その強さははかれる。
そんな人間を選びだしているあたり、ただの資産家ということはないだろう。
先代タキオンのボス、レオンとボスの座を争ったというのは、本当らしい。
「あら、めずらしい。緊張してるの、恭也?」
サラが、おもしろがるように、おれを見てくる。
「警戒しているだけだよ。そもそも、カイエ氏とやらとは、どういう知り合いなんだ?」
「仕事を引き受けたことがあってね。そのときに、気に入られちゃったのよ。心配しなくても、タキオンからは、ボスを争って負けたあとに足を洗っているから大丈夫よ。今は単なる、大成功した実業家」
なるほど。
調べたところでは、カイエ氏は、スーパーマーケットからリゾート開発まで手広く事業を展開している。
資産額は、1000億円以上とも言われているようだ。
「よくタキオンがぶじに足抜けをさせたな」
しかも、ボスの地位を競ったような実力者を、生かしておくような甘い組織ではないはずだ。
争いに敗れたあとでも、十分な影響力を持っていたはずだが……。
「レオン・ガーネットとカイエ氏は、親友だったらしいわ。それで『以後、裏の世界にかかわらない』という約束のもと生かされたって。カイエさん本人がわたしに語ってたわ」
「親友、ね……」
おれは言いながら、考えこむ。
タキオンの先代ボス、レオン・ガーネットとは、ライバルであり親友である男を守るていどの、器を持った人物だった、ということか。
おれもかつて、タキオンで「幹部」と呼ばれていたことがある。
だがそのころは、レオンが亡くなって、ボスの座の空白期間だった。
おれが抜けたあと、レオンの息子だという少年がボスになったときいた。
だから、レオンとも、ノアとも、面識がない。
師匠ならば、レオンのことも、カイエ氏のことも、知っていてもおかしくないが……。
「わたしからすると、カイエ氏は、やさしいおじいちゃんよ」
と、サラが無邪気に言う。
「おれに対しても、そうであってくれることを願おうか」
レオン・ガーネットが生きていれば、50代後半ぐらいのはずだが、調べたところ、カイエ氏はそれより20歳ほど年上の70代だった。
それほどの年の差があっても、「親友」と呼ぶ関係だったのだろう。
サラが、屋敷の前の警備スタッフに近づいていって、声をかける。
「ちょっといいかな? カイエさんと約束してるんだけど」
「お名前は?」
警備スタッフの男が、けげんそうな顔で確認してくる。
「サラよ。そういえば、伝わるから」
警備スタッフが、無線で連絡をとると、中からエプロンすがたの女性が早足でこちらにやってくるのが見えた。
知った顔なのか、サラが笑顔になる。
「こんにちは。エレンさん」
「ようこそ、サラちゃん。待っていたわ」
エレンと呼ばれた、家政婦らしき女性も、サラに笑みをむけている。
本当に、この屋敷の関係者と、なかよくしているようだ。
「さあどうぞ、中へ」
エレンさんに言われて、警備スタッフが門の横にある通用門を開けたので、おれとサラは敷地内に入る。
門の中は、ちょっとした公園かと思うような庭園が広がっていた。
屋敷までは、50メートルぐらいはありそうだ。
「こちらの方が? まあ、ずいぶんキラキラした方なのね」
屋敷にむかって進みながら、エレンさんが、おれを見あげてくる。
おれは、とびっきりの笑みを披露する。
「ええ、カイエさんに話をしたいっていう人。こう見えて、けっこう信用できるから、安心してね」
サラが、かるい調子で言う。
「こう見えて」と、エレンさんがくすくすと笑う。
いったいどういうことだろうか。
気安いのがサラのいいところだが、この規模の資産家相手でも変わらないのは、さすがというべきなのか……。
「ご主人様から、お通しするように指示されているから、問題ないわ。中へどうぞ」
エレンさんが、屋敷のドアを開ける。
屋敷のろう下には、花の絵画がいくつも飾られている。
おれは、飾られている絵画を見て、目を見ひらく。
「ルノワール、セザンヌ、モネ……まさか真作か?」
美術を見る目はあるつもりだが、どれも本物に見える。
無粋な話だが、単純に「価値」だけとっても、今見てきたものだけで数十億から100億円近いか。
「もちろん、そうよ。カイエさんは、お花が好きなんだって。タキオンから抜けたあとに、まずはじめたのが、お花屋さんだったという話よ」
犯罪組織をやめて、花屋とは、華麗すぎる転身じゃないか?
「このコレクションは『花が好き』というレベルの問題じゃないが……。それはそれとして、大胆な転職だな」
花屋なら、まず裏の世界との関係を疑われることもないだろう。
もちろん、そういう狙いも、あったのかもしれない。
「こちらですよ」
エレンさんが、あるドアの前で立ち止まる。
ノックをする。
「サラさんとお客様を、お連れしました」
「入ってくれ」
部屋の中から返事がある。
エレンさんとともに部屋の中に入っていくと、いごこちのよさそうなソファに白髪の老人が、おだやかな笑顔ですわっている。
「やあ、サラ。よくきてくれたね。そして、君がサラが話していた……」
「織戸恭也です」
おれは、素直に名乗る。
今回は正体をかくしていない。
お願いごとをするのに、正体不明では、得るべき信用も得られない、と判断したからだ。
「ヘクター・カイエだ」
カイエ氏は、ソファにすわったまま、おれのことを、まじまじと見る。
「きみが、アルフォンスの跡継ぎか。──2代目怪盗ファンタジスタ」
「先代をご存知なのですか?」
名乗りはしたが、おれが怪盗ファンタジスタであることまでは、伝えていないはずだ。
それでも知っているのは、カイエ氏に独自の情報網があるということだ。
やはり、ありのままを名乗って正解だった。
ここでごまかしをしていたら、即座に追い返されていたところだろう。
「私がタキオンにいたころにな。アルフォンスとは、敵になったり、共闘したりと、刺激的な相手だったな。すばらしく優秀だったが、一匹狼で、特定の者とは組まない主義の男だったからね」
「想像がつきます」
あの師匠が、組織に属するというイメージがなかった。
今、ラドロという組織のボスの座にいることも、いまだに腑に落ちないくらいだ。
本質的に1人で動きたい人なのだ。
「これ以上、若者を年寄りの昔ばなしに付き合わせるのも悪い。用件に入ろう。──闇オークションの招待状、だったな」
「はい。ゆずっていただけませんか」
おれもまっすぐに伝える。
すると、意外なほどすぐに答えが返ってきた。
「いいだろう──ただし、条件がある」
「なんでしょう」
「レオンの日記を、タキオンに決してわたさないこと──だ」
「!」
そもそも、そのつもりだ。
ただ、念を押されたということは……。
「……カイエさん。つまりあなたは、今回のオークションで、タキオンが日記帳を狙ってくると、確信されているのですね」
「まちがいない」
カイエ氏は、また即座に断言する。
「わかりました。おれの目的も同じです。タキオンにはわたしません」
カイエ氏の目をまっすぐに見つめてこたえると、カイエ氏は、おもしろそうに声をあげて笑った。
「……なるほど。アルフォンスは、いい2代目に継がせたな」
さぁて。それはどうだか。
師匠がおれのことをどう考えているかは、さっぱりわからない。
いつも、怒られてばかりだからな。
どうあれ、おれは、自分がやりたいようにやる。
師匠の期待に応えられているかは、どうでもいいさ。
ま、そんなことは今はいい。
これで、最初の問題はクリアした。
次は、どうやって日記帳を手に入れるか、だな。
12 アスカは止まれない!
「はあぁ……」
わたしは、教室の自分の机でひじをついて、自然とため息をついていた。
アリー先輩を救うんだ!──。
って意気込んだものの、相手は、あのタキオン。
しかも、ニックたちの居場所はつかめていないまま。
先輩が連れ去られた現場にいたエメラにも、どこにむかったのかはわからないという。
ニックたち幹部の居場所をつきとめるため、今必死で、ラドロやケイが動いている。
その間、わたしにできることは、なにもないんだ……。
それで、ふつうに学校にきた。
ケイは情報収集に集中してるから、休んでいるけどね。
もちろん、居場所の調べがついたら「怪盗レッドの実働役」のわたしが、即、むかうことになる。
いまは、そのときのために、体を休めておくことも大事だ。
……って頭ではわかっているけど!
心はどうしたって、あせっちゃうよ!
いまごろアリー先輩はどうしているかな。
くるしかったり、痛かったりしないかな。
エメラからは、さらわれたときは、一応丁重にあつかわれてたってきいたけど、そのあと状況が変わることだってあるよね。
だって、さらっていったのは、あのニックなんだよ!?
ものごしやわらかそうに見えて、いつも瞳の奥が凍りついたような男。
万一、アリー先輩になにかしていたら……!
気をもんでもどうしようもないと、わかっていても頭の中からは消せなかった。
学校にきてすぐに、いてもたってもいられなくて、3年生のクラスを見にいった。
けど、あたりまえだけど、アリー先輩は「お休み」ということになっていた。
3年生のクラスの人たちも、
「緋笠さん、お休みなんだね。どうしたんだろう?」
「風邪かな?」
なんて、心配そうに話しているのがきこえた。
事情は知らなくても、みんな気にかけてる。
季節外れの転入生としてやってきて、最近まで、ずっとひとりぼっちでいたアリー先輩だけど。
アリー先輩。
みんな、待ってるよ。
ここは、先輩が、自分で作った居場所だよ。
心の中で、わたしはそっと語りかける。
アリー先輩を、ぶじにこの場所に帰ってこられるようにしてあげたい!
そう気持ちを新たにしても、なにも動けないのが、もどかしい。
でも、あらためて不思議なんだよね。
なんで、ニックがアリー先輩を連れ去るのか。
アリー先輩は、ノア・ガーネット──あのタキオンのボスの双子の妹。
でも、アリー先輩はタキオンの一員じゃないって、ケイは言ってた。
だとしたら、先輩をさらって、ニックはなにをしたいの?
話をしたいだけなら、アリー先輩にそう伝えればいいはずだし、エメラを痛めつける必要だってなかったはずなのに──。
考えてもしかたがないって、わかっているのに、いろいろな考えがずっと頭の中をめぐってしまって……。
「ア────ス─────カ──────!」
ハッ!
声に、わたしは顔をあげる。
「ぼーっとしてる」
水夏が、ジト目で見ている。
うわあまずい、いま部活の時間だった!
演劇部の練習には参加したものの、気がつくとアリー先輩のことばかり考えていて、集中できてなかった!
さいわい、次の公演の予定がだいぶ先で、まだなんの演目をやるかも決まってない段階ではあるんだけど。
それぞれに自分の課題を練習する時間になってるせいで、なおさらぼーっとしていたわたしが目立ってた!
「ご、ごめん! 水夏」
わたしは、水夏にむけて手をあわせる。
水夏は副部長だもんね、みんながしっかり部活にとりくめてるか、監督するのが仕事だもん。
友だちなのに、足をひっぱっちゃった。
でも、その水夏があきれた顔で言う。
「どうせまた、だれかのことが心配で気もそぞろ、とかなんでしょ」
「えっ? いや……その……うん」
図星だ……。
なんで水夏は、そんなことまでわかっちゃうんだろう?
「どうしてわかるの?」
「演技になやんでるって感じじゃなかったし。アスカならどうせ、理由はだれかのことなんだろうなって。お人好しだし」
「わたし、お人好しかな?」
「自覚ないの!? あんたはおバカみたいなお人好しよ。まあそこがアスカらしいところだけど」
水夏が、あきれたという顔をしてる。
「ほめてるの、それ?」
「人のために動けるって、だれでもできることじゃないの。わたしだったら、よっぽど大切な人じゃなきゃ動けないから」
「……うーん、水夏だってきっと、人のために動くと思うけどなぁ……」
わたしは、特別なことをしてるなんて、思ったことがないし、ピンとこない。
水夏だってほら、いつも友だちのためだとか、演劇部のためだとか、人のためにすごーくがんばってるじゃない?
その点、わたしは……えーと。
「でも、なにかすることだけが、その人のためってわけじゃないでしょ」
「えっ?」
「動かずにいるってことだって、ときには必要なんだよ。たとえば、迷ってる部員が、ぐるぐるなにかを考えこんでいるときとか──ね」
あっ。
「……うん。少しは、うわの空じゃなくなったみたいね」
「あっ、今の会話って、もしかして、わたしのため?」
ずっと、思考の海の底で、ぐるぐるぐるぐるしていたから。
「さあねー。わたしは、アスカみたいにお人好しじゃないし」
水夏はクールに言って、はなれていく。
「ありがと、水夏!」
おかげで、止まらなかったあせる気持ちが、少ししずまった。
冷静な考えが、もどってくる。
わるい可能性ばかりを考えていたって、どうにもならない。
なにも動いていないように見えても、今はケイや、情報を集める人たちが、必死に動いている。
ケイが、前に進めようとしてくれてる。
わたしはただ、自分がなにもできないことが、もどかしくて、くるしいだけだ。
こういうことだから、きっと「イノシシみたい」なんて言われちゃうんだよね!
水夏は、なにも知らないのに、わたしの様子を見ただけで、なにかに気づいていた。
演技をする人の観察眼──なのかな。
それだけじゃないよね。
ありがたいなぁ、友だちって。
待っていよう。
このあとなんだ、わたしの力が必要になるときは……!
そのときにトップスピードが出せるように。いまは、力をためる!
わたしは、ギュッと拳をにぎりしめた。
13 舞い降りた鳥は?
夜の8時をまわったころ。
わたしは、ラドロのいつもの部屋に、いそいでやってきた。
ケイから、「いそいでこい」っていう連絡が入ったから!
部屋に入ると、ケイとアルフォンスさんがソファにむき合ってすわっていて、パッとわたしをふりむいた。
2人の間にあるテーブルには、書類が散らばっていて、ケイもアルフォンスさんも、はっきりと疲れているのが顔ににじんでいた。
「手がかりをつかんだってきいて、きたけど。……だ、大丈夫?」
思ったよりも、やつれている2人に、わたしはきく。
「問題ない」
ケイは顔をあげて、答える。
わたしは、ケイのとなりにすわる。
「時間がない。さっそくだが話そう。といっても、直接アリーヤ・ガーネットのゆくえがつかめたわけではない。だが、『情報がある』と言う人物が現れた」
アルフォンスさんが、話をはじめる。
「人物って?」
「我々だけでは、タキオン幹部のゆくえをつかめなかった。だが、ある者が名乗り出てきたのだ」
えっ……。
つまりそれは、ケイやラドロが調べてもつかめない情報を、知ってる人ってことなんだよね!?
幹部のエメラすら知らない情報だよ?
そんなのをつかんでいるなんて……どんな人なの、それ!?
「『カラス』と名乗っている男だ。こちらの世界では、名を知らぬものがいないほど有名な『情報屋』だ」
「情報屋って……情報を売ってる人ってこと?」
映画とか物語のなかでしか、聞いたことがないけど。
そんな仕事をしてる人って、本当にいるんだ?
なんて、実際に『怪盗』をやっているわたしが言うのも、ヘンだけど。
「カラスが、むこうから話を持ちかけてきた。『そちらのほしい情報を、お売りしましょうか』、とな。こちらは調査していることがわからないように、極秘で動いていたにもかかわらずだ」
ケイが、にがい顔をしている。
「ええっ、それって情報がもれてるってこと!?」
「そうなるな。厳戒態勢をしいてはいるが、穴がないとは言えん。これまでカラスと取引したことはないが、腕のいい情報屋というのはまちがいがないらしい。──ただ、問題はここからだ」
アルフォンスさんも、むずかしい表情をする。
「情報を持っているんでしょ。きけばいいじゃない?」
「本当にカラスが、タキオンの幹部や緋笠アリーについての情報を持っているのかは、まったく裏がとれない。オレとラドロが総掛かりでやってもつかめないんだ。それをなぜカラスが……」
ケイが表情の理由を説明する。
「──つまり、カラスがタキオンとつながっていて、ワナを張っている可能性があるってことなんだね?」
このタイミングで、必要な情報を持っているなんて、あやしいことこの上ないし。
「カラスは、どこの組織にも味方しない、完全なる『中立』だ。だからこそ信頼されている。だが今回は、タキオン側についている可能性を無視できない。とはいえ、オレたちが情報をまったく探りだせない以上、カラスが持っているのかもしれない情報は、のどから手が出るほどほしい──」
「なるほどね。じゃあ、答えは決まってるよね」
「!?」
わたしの言葉に、ケイとアルフォンスさんが、一瞬呆気にとられた顔になる。
「ここでいろいろ言っても、解決しないってことでしょ?」
あれ?
「なんか、まちがってた?」
「いや。そのとおりだ」
アルフォンスさんが、口もとにわずかな笑みをうかべて言う。
「そもそも、選択肢が少ない。カラスの情報提供の話に、乗るか、乗らないか。オレたちの選択肢は、それしかない。アスカの言っていることは正しい」
ケイも、わたしの意見に賛成してくれる。
わたしは、おもわずテンションが上がって飛びだしそうになる。
「あーよかった、なにもできることがなくて、バクハツしちゃいそうだったんだよね! それに──ちょっと情報屋っていう人にも、会ってみたいし」
「ずいぶんと楽しそうだな」
わたしの感想に、アルフォンスさんがジロリと見てくる。
「アリー先輩のぶじがかかってるんだから、真剣に決まってるでしょ!」
わたしは、あわてて言った。
「わかっておる。おまえの度胸には、感心させられると言いたかったんだ。……それで、どちらにする?」
アルフォンスさんがあらためて、たしかめてくる。
「もちろん。決まってる」
わたしがケイと視線をかわすと、ケイがうなずく。
答えは1つしかない。
「──カラスの提案に乗るよ」
14 真夜中の取引
カラスから指定された場所は、街はずれにある、忘れ去られたような、古い映画館だった。
しかも、真夜中の時間に。
わたしとケイは2人で、ラドロのビルを出たその足で、映画館にむかうことにした。
ワナがあるかもしれないときに行動するのは、ふだんならわたし1人。
でも、今回はそうもいかない。
カラスが規格外の相手だっていうことは、わかってる。
いつものケイとの通信が通じるかもわからないし。
通じたとしても、わたしだけでは、カラスを相手にうまく立ち回れるとも限らない。
これは、1回きり。
一発勝負の賭けなんだ。
だから、ケイにもついてきてもらった。
「……古そうだけど、手入れはされてる感じだね」
映画館の前に立って、建物を見あげる。
こぢんまりとしてかなり古い建物だけど、ほったらかされた廃墟じゃない。
茶色の壁は時代を重ねてきたのがわかる、レトロで素敵な雰囲気の外観をしている。
アルフォンスさんの情報では、この映画館はだいぶ昔に閉館になったきりらしいんだけど。
ドアを押してみると、すんなりと開いた。
中には、薄明りが点っている。
受付には、あたりまえだけど、だれもいない。
レッドのユニフォームを着たすがたでも、呼び止められることなく、そのまま館内に入れる。
「この中……かな?」
スクリーンのある部屋の、ドアの前で立ち止まって、となりを見る。
こんな緊張するときに、真横にケイがいるって、なんだか不思議。
「行こう」
ケイが言って、わたしは映画館独特の、重いドアを開ける。
スクリーンには、白黒の古い映画らしきものが映しだされていた。
音声は聞こえない。
そして──。
広くない座席の中央あたりに、中折れ帽をかぶった男が1人、すわっていた。
ほかには人はだれもいない。
ケイに目配せして、わたしだけで男に近づいていく。
すると──。
パッとスクリーンの色が切り替わり、中折れ帽の男の顔が、大きく映しだされたんだ!
画面の中の男は、芝居がかったしぐさで帽子をとり、ふかぶかと頭を下げる。
『やあ、ようこそいらっしゃいました。わたくし、カラスと申します。怪盗レッドのお2人おそろいで、お会いできたいへん光栄です』
「────ッ!」
いったいなんなの!?
わたしは、警戒して身がまえる。
そのとたん、ホールの中の照明がついて、とつぜん明るくなる。
「──すみません。おどろかせてしまいましたか」
座席に1人ですわっていた男が、立ちあがって振り向いた。
スクリーンの中で、おじぎをしているのと、まさに同じ顔をした男が、そこに立っていた。
「せっかく、あの怪盗レッドのお2人に会うというのに、歓迎の趣向の1つもないのは、もうしわけないと思いまして。演出を凝らせていただきました」
ニコッと、男は笑みをうかべる。
……けど、うさんくさすぎる!
こいつが、カラス!?
ただ、黒ずくめな上に、無精ひげに丸い小さなサングラスすがたの年齢不詳な男がにっこりしても、もうしわけないけど、あやしさしかないよ!
それにさっきから、気になってることがある。
「まるで、わたしたちが怪盗レッドだとまったく疑っていないようだけど? それにわたしたちが2人でやってきたことも不思議に思ってなさそうね?」
わたしは、声色を変えて言う。
「そこは情報屋ですから。あなたがたの正体についても、あるていど存じあげています。ただ、この情報についての売買はリスクが高すぎて、売れませんがね」
リスクっていうのは……どういうこと?
と、わたしはおもわずケイに目をやるけど、ケイはカラスを見すえたままだ。
「あなたがたは、思った以上に守られているのでね」
カラスは、肩をすくめる。
守られてる……だれにだろう?
わたしは疑問を感じたけど、いまはそれをきいてるヒマはない。
タキオンの情報が優先なんだから。
「あなたが、自分の信用を得るために、実力を示すのはまちがっていない。しかし、相棒の疑心暗鬼をつのらせる結果になるから、そのあたりにしておいてもらえるか」
ケイが、わたしのとなりに立って、言う。
ケイも、いつもより口調や声を変えて、少し低く、大人っぽい声になってる。
「それは失礼」
「本題に入ってほしいんだけど──カラス」
わたしは、話をもどす。
「かまいませんよ。あなたたちが知りたいのは、タキオンの幹部たちの動向。そしてアリーヤ・ガーネット……いや、『緋笠アリー』さんのゆくえについてですね」
「知っているの?」
アリー先輩が、アリーヤ・ガーネットだっていうことも?
「もちろん。すべての情報をつかむのが、私の仕事ですから」
カラスは、かるく応じる。
「条件を知りたい。金額は、あるていど用意できる」
ケイがきく。
情報屋から買う以上、教えてもらうには、お金を払わなくちゃいけないもんね。
その分の代金は、アルフォンスさんが持つという話がついていた。
すると、カラスが首をふる。
「いえいえ。怪盗レッドからお金をいただこうなんて、思ってはいませんよ」
うう~~~うさんくさい!
「だからって、タダってわけじゃないんでしょ!?」
わたしだって、そんな甘い話があるとは思ってない。
それに、タダだって言われたら、逆にまったく信用ができないよ!
ケイは、「カラスは中立だ」と言っていた。
それは、わたしたちの味方でもなければ、タキオンの敵でもないってことだ。
無条件で協力してくれるなんて、ありえない。
「察しが早くて助かります。こういった仕事をしているのに、『情報なんてかたちのないものは、タダで受け取れてとうぜんだ』と考えるような方も多くて、いささかこまっているんですよ。なにごとにも、ふさわしい対価は、必要です」
カラスは、笑みが消えて、瞬間、すごみが増したみたい。
「……!」
一変した空気に、わたしはおもわず身がまえそうになって、ぐっとこらえる。
「それで、なにが望みだ?」
ケイがたずねる。
カラスが笑みを深くした。
「怪盗レッドならむずかしい話ではありません。──ある絵画を、盗んでこちらにわたしていただきたいんです」
このつづきは2月28日(金)に更新するよ!お楽しみに!