編集部より
角川つばさ文庫の伝説級ヒット☆『いみちぇん!』でおなじみの、あさばみゆきさんのフェアが開催中!
フェアを記念して、ここでしか読めないスペシャルなSSを大公開!
史上初!
『いみちぇん!』『星にねがいを!』『サバイバー!!』が、夢のコラボ!?
超豪華なあさばみゆきさんの書き下ろしSSを楽しんでね!
<あらすじ>
高校生アイドルとして大活躍するリオ(いみちぇん!)がテレビ局でばったり会ったのは――チトセ中の後輩、ハルキ(星にねがいを!)!? テレビの向こうではS組のいつものメンバー(サバイバー!!)でホラー映画鑑賞会!番組を変えたら、ミュージックフェスのアイドル特番が映って…?
夏はアイドル&ホラーでしょ!?
夏のアイドル業界は、大いそがしだ。
サマーフェスに音楽番組の特番。
「F♡rce」は、デビュー四年目。高校生になったあたしたちは、ますます出番を増やしてもらえて、さらにてんやわんやだ。
で、ようやく今日のテレビ収録も、終了。
出演者全員でひな壇に並び、ぐいーんと横にスライドしていくでっかいカメラに、きらっきらの笑顔で手をふる。
「おつかれさまでしたー」
「ありがとうございましたー!」
スタッフさんに頭を下げ、みんな控え室にハケ始めた。
前に居並ぶのは、そうそうたる有名ミュージシャンたち。
あたしたちも、もっともっと実力をつけて、いつかそこの最前列に並んでみせるから――っ。
なんて考えつつ、大センパイたちのお帰りを見送り、あたしは忙しく目を動かす。
ひな壇のちょうど反対の左サイドに、ふわふわした明るい色の頭が、ぴょこっと見えた。
「あたし、ちょっと用事! みんな、先に控え室行ってて。おつかれ~」
「あ、そう? じゃ、後でねー」
メンバーと別れて、あたしはぴょいっと壇を降りる。
衣装のブーツは、九センチヒール。
だけどこれで踊ってるんだから、ジャンプくらいなんてコトない。
スタッフさんとミュージシャンたちが交錯する人波を、あたしは泳ぐようにして、さっきのふわふわ頭をさがす。
そしたら、向こうからも、ダレかをさがしてる男子が、きょろきょろしながらこっちに来る。
子犬みたいなカワイイ系の男子。
超大手事務所の、売り出し中の中学生ユニットの片割れ。
番組外で話しかけるのは、あたしの立場的にも、向こうの立場的にも、あんまり良ろしくないのは分かってる。
だけど、ちょっと今日はゴメン!
彼の方も、あたしを見つけた。
「「あ」」
そしておたがいを同時に指さし、
「冴子のっ!」
「冴の!」
「「チトセ中!!」」
同時に、同じことを言う。
まわりのミュージシャンたちは、なんだぁ?って顔で、あたしたちをふり向く。
やばっ、注目されちゃう。
二人でシーッと指を立て、ステージ裏の、セットの陰に駆けこんだ。
「マジで、こんなご近所さんで、しかもイトコの友だちがアイドルって、びっくりすんだけど」
「それはボクのセリフだよー。しかも同中だしね」
共通点の多すぎるあたしたちは、その場でのおしゃべりが終わらず、局内の自販機コーナーに移動。
おたがいに時計を見ながらの、立ち話になった。
この〝かわいい〟を絵に描いたような少年は、男子ユニットアイドル「H&Y」の大河ハルキ、こと、ハルルン!
あたしのイトコに、一之瀬冴子ってコがいるんだけどね。
その冴子と、このハルルン、なんと小学校が同じクラスで、ずーっと一緒にツルんでる仲だったんだって。
しかもハルルンは、あたしが卒業したチトセ中の、現役三年生。
学年がちがうせいもあるけど、あたしも彼も仕事で忙しくて、在学中は全然話せないままだったんだよね。
「あ、そだ。リオちゃんってセンパイじゃん。タメ口ですみません!」
「いやいや、芸歴はハルルンのほうがずっと長いから」
「いやいや、事務所には小学生の時から入ってたけど、デビューは中二で去年なんで」
あたしたちは、いやいやいやいやと言い合う。
するとハルルンがアハッと笑った。
「じゃあもうタメでいい?」
「オッケオッケ。つか、うちの冴子がお世話になってんでしょ? ありがとねー」
「冴とは、ずっと一生親友~。あー、冴で思い出したっ。ボクさ、F♡rce一期生のオーディション番組、友だちんちで録画見たんだよ。それこそ冴もいっしょに」
「ギャー、恥ッ!」
人生イチバン緊張しまくったオーディションを思い出して、顔から火が吹く。
「あのコ、そんなこと全然言ってなかったよ!?」
「超かっこよかったよ。リオちゃん、今もF♡rceのダンス担当でしょ。さすがだなーと思った」
「ダンスきれっきれのハルルンにそう言ってもらえると、うれしいわぁ」
ペットボトルのふたをひねった後、ろくに口もつけずに話が弾む。
途中で、ハルルンのユニットの相方、ユウキくんも顔を出しに来て、一緒にベンチに座ってくれた。
なんと彼、うちのメンバー、ミサのファンなんだって。
ミサを呼んできてあげよっかって聞いたら、真っ赤になって、「うちの事務所、恋愛禁止なんで! ヘタに会えると思うと、図々しくリア恋になっちゃいそうなんで、エンリョします!」って。
かーわいい。
で、あたしとハルルンは引き続き、母校の話や、冴子の話で大盛り上がり。
掘り起こせば掘り起こすほど、共通の知り合いがいっぱい見つかりそうだなぁ。
ハルルンはスマホを取ってきて、アルバムを開く。
「もしかして、ヒヨ子とか真も知ってる?」
「えー、ヒヨ子? なんだっけ、どっかで、その響き、聞いたことあるような……」
覗きこんだ瞬間、
「「あ」」と声がかぶった。
ハルルンのスマホのアルバム、「冴」ってフォルダがあるじゃん。
しかも、剣道の試合中らしい冴子の凛々しい横顔が、サムネになってる。
おわー。これは……っ?
「二人、つきあってる?」
「ない!」
ハルルンのでっかい声が、でっかく廊下に響き渡った。
とたん、横に座ってたユウキくんが、パッとハルルンの口を片手でふさぐ。
ギョッとしてふり向いたスタッフさんたちに、ユウキくんはにっこり。
「おさわがせしました~」
パッと彼が手を離すと、ハルルンは真っ青になって、「ごめん……」とつぶやく。
「ハルキはそういうトコが、うかつ。気をつけな」
「はぁい」
怒られてるし。
ハルルンはスマホに目を落とし、でっかいタメ息をついた。
「リオちゃん、誤解しないでね。ボクの一方的な片想いだから」
「マジか」
「一生かなわないの分かってるし、それでいいんだ」
「それでいいんだ」
「うん。それでいい」
ハルルンは顔を上げた。
失恋に打ちひしがれてる顔じゃなくて、むしろ凛々しいくらいの清々しい顔。
「冴はね、一生ボクの親友で、星なんだ。冴が心にいるかぎり、ボクはゼッタイに迷子にならない」
彼は自分の胸に手を当て、ニッと笑う。
あたしは初めて、H&Yのかわいい担当・大河ハルキが〝かわいい〟じゃなくて、〝カッコいい〟に見えて、ちょっとビックリした。
ふぅん。冴子、ずいぶんカッコいいコを親友に選んでるじゃん。
さすがあたしのイトコ。
「……じゃあさ。あたしの好きな人も見せてあげる。あたしも片想いで、ゼッタイにかなわないんだ」
スマホを出したら、ぎょっとしたハルルンと、好奇心いっぱいのユウキくんが、顔を近づけてくる。
あたしは軽く笑って、待ち受けの写真を見せた。
ひふみ学園初等部の時の、サマーキャンプの写真だ。
スマホを買い換えても、ずーっと終天、待ち受けはこの写真。
ずらっと並んだメンツの、あたしの後ろ。右上を指さしたら、ハルルンたちは目を瞬いた。
「この人」
「……この人?」
「そこ、だれも写ってないですけど……。え、ホラー?」
ユウキくんの眉間に、すんごいシワが寄った。
おい、って、ハルルンがユウキくんを小突く。
「見えない人なの。でも、あたしには見える」
ハルルンは画面をしげしげと見つめて、ふぅんって。
「どんな人なの?」
さらりと聞かれて、今度はこっちが驚いた。
「リオって好きな人いないの~?」って聞かれるたび、この写真を見せてた。大体みんな、「からかわないでよ」って怒りだしたり、気味悪がったりするのに。
「写ってるって……、信じてくれるの?」
目を丸くしたあたしに、ハルルンはにこっと笑う。
「オレの友だちにも、見えないのが見えるコがいるよ。だから全然、ふつーに信じる」
あたしは、丸くなった目を、さらにおっきくしちゃう。
あー、そう。そっかぁ。信じてくれるんだぁ。
胸の奥から、ジワッと熱いものがこみあげてきて。
バンッ!
あたしはハルルンの肩を、思いっきりたたいた。
「痛!?」
「ありがと」
ニーッと歯を見せて、全開の笑顔!
「あ、う、うん?」
「この人、めちゃくちゃ美しいんだわ。ザ・美貌ってかんじ。でもめっちゃ怖くて」
「怖いの?」
「そう。でも優しいの。あー、なんだろな。カンタンに言えないわ。それで、あたしのことは、絶対に好きにならない人」
二人とも黙っちゃった。
あたしは眉を下げて笑う。
「でもさ。ハルルンと同じ。会えなくても、好きだって言わせてもらえなくても。あたしは、この人のことをずっと好きでいる自分が好き。一生、この人に恥ずかしくない自分でいようと思うと、背筋が伸びる」
「それめっちゃ分かる! ボクもさ。好きになってもらえなくったって、オレかっこいいでしょー!?って、百パーセント胸を張れる、そんな自分でいたいよ」
「そう、それなのよ! ハルルン、同志じゃん~」
あたしたちはガッと握手を交わした。
そんなあたしたちを、ユウキくんは肩をすくめて見守ってる。
「だけどそろそろ解散しないと、ここの二人で、変なウワサ立てられちゃうよ?」
「「はーい」」
あたしたちは笑って、「またね、同志!」って別れた。
ふふ。なんだか、めっちゃ元気出たなぁ。
いや、元気なかったわけじゃないけど、このままがんばろうって、また思えた。
あたしは控え室に走りながら、また、スマホの画面に目を落とす。
ちゃんとそこに写ってる、栗色の髪の、栗色の瞳の、初恋の人。
あたしはハルルンみたいに、胸の〝星〟に手をあてる。
「見ててよっ、千方センパイ! センパイだって目を奪われちゃうような、超かっこいいアイドルになってみせるからね!」
そして、届くはずもない宣戦布告を、宙に投げた。
***
「待って、マメちゃんストップ!」
テレビを消そうとしたあたしは、唯ちゃんにパシッと腕を止められた。
テレビに映ってるのは、音楽特番。
出演者がずらーっとひな壇に並んで、バイバーイって手を振ってるところだ。
「好きな人出てるの? もう終わっちゃうトコみたいだけど」
「ギャー、出てる~! ミュージックフェスの特番、すっかり忘れてたよ……!」
ショックを受けた唯ちゃんは、コミュニティルームのテーブルにつっぷす。
今日は保護者会で、S組の午後訓練もナシ!
寮メンバーに、遊びにおいでーって誘ってもらった流れで、みんなでホラー映画を観て、震えてたところなんだ。
うてなはやっと毛布の中から顔を出し、ホーッと息をつく。
「唯の推しってダレなんだ?」
「F♡rceの箱推し! メンバーみんな超かわいくないっ? 唯、ライブ行ったことあるんだ」
「最近よくテレビも出てるよねー。わたしはリオが好みかなー」
「あー、千早希好きそう」
「ナオトは?」
「オレは芸能人よくわかんないけど、うちの姉貴が、H&Yのファンクラブ入ってて、ハルルンかわい~っとか叫んでたなァ」
六年も加わって、わいわい。
ホラー映画から、ガラッと空気が変わって、正直、あたしも助かった。
捨てても捨てても戻ってくる、いつの間にかスーッと背後に立ってる、日本人形。
あたし、西洋ものは大丈夫なんだけど、和風ホラー、ほんとダメなんだよね。
――と、なぜか涼馬くんが、ジッとあたしを見つめてる。
あたし……っていうか、あたしの、肩の、後ろ……?
さっきの日本人形の虚無の顔が、頭をよぎる。
「あ」
指さされて、ヒュッと心臓が持ち上がった。
「ギャアアアア!」
「ぎょわわあああ!」
「ヒエエエエッ!?」
あたし、うてな、健太郎くんへと、悲鳴に悲鳴が連動して、コミュニティルームは絶叫の連鎖!
「落ちつけ! 虫だ、虫!」
涼馬くんはカベに止まってた蛾を、あまってた紙コップで、かぽっと覆う。
そのままスライドさせて、窓の外へ逃がしてあげた。
「蛾は毒針持ってたり鱗粉でかぶれたりするから、直に触れるなよ」
「さ、さすがリーダーです……」
豆知識をちょうだいしたあたしは、まだ心臓がばっくばっくしてる。
そこに、楽さんがひょこっと顔を出した。
「涼馬、すごい悲鳴が聞こえたけど、なんかあった?」
「すみません。ホラー映画と、蛾が原因です」
楽さんは、あたしたちがカベに背中を張りつけてるのを眺めて、プッと笑う。
「楽しそうでなによりだけど、そろそろ自宅組は解散~。暗くなる前に帰りなさーい」
みんないっせいに、「了解(ラジャー)!」って、広げたものを片づけはじめる。
でも、窓の外はまだ暗くなり始めたばかり。
もうちょっと遊んでいけたらいいのになぁ。名残りおしくなってたら、楽さんはあたしたちの頭を読んだみたいに、ニッと笑った。
「このあたりは、暗くなってくると危ないんだよ」
「変質者が出るとかか?」
「そんな情報、知りませんでしたが」
うてなと涼馬くんに、楽さんは首を横にふる。
「そっち系の話じゃなくてね。・・・・・・実は、学園を出たところのヤブで、むかし――」
語りのテンションが、完全にホラー風味だ。
楽さんは、顔を引きつらせるあたしたちを眺めまわし――。
視線をピタッと、あたしの肩のところで止めた。
あたしが背にした、窓のあたり……?
その目が、ハッとしたように大きくなる。
いやいやいやいや、わかってるよ、わかってるからねっ。
また蛾か、驚かせようっていうイタズラだよね!
あたしは冷やアセを噴き出しながら、ギギギギッと顔を動かす。
そして、窓の、外。
窓ガラスごしの薄闇に、ぼんやりと――、
切りそろえた黒髪。白い面。静かにこっちを見つめる、二つの目!
ヒィィィィィ……!
「ただいま」
ガラッと開いた窓から、七海さんが顔を出した。
「荷物が重いので、ここから入れさせてください」
「またずいぶん買いこんだねぇ、七海」
楽さんが、パソコンのパーツらしきものがぎっちりつまったふくろを受けとる。
な、な、七海さんだったかぁ……っ!
たしかに寮の女子階へ上がる階段は、玄関から回るより、こっちからのほうが近い・・・・・・。
「みなさん、どうしたのですか?」
七海さんは小首をかしげた。
あたしの首に両手両足でしがみつくうてなだけじゃなく、コミュニティルームの床は、腰をぬかした五年メンバーが、死屍累々。
「心停止しかけたよォォ」
「今バイタルとったら異常値だね……っ」
唯ちゃんと健太郎くんまで、打ちふせて動けなくなってる。
そしてなんと涼馬くんまで、立ったまま固まってるよっ。
「びっくりしたね」
「イヤ? 最初に、そして常に心をしずめろ、だろ」
「え~⁉ ゼッタイびっくりしてたって!」
「うっせ」
のぞきこんだら、しょっぱい顔で、おでこをドスッとつつかれちゃったのでした。
そんなわけで、自宅組は、心拍数異常値のままでヨボヨボと寮を出た。
あたしはうてなとバイバイして、一人で薄暗い道を歩いてる途中。
ふと、思い出してしまった。
――そっち系の話じゃなくてね。実は、学園を出たところのヤブで、むかし――。
ヤブの木々をぬるい風がなでて、サァァッと不穏な音を立てる。
そういえば、あれ、な、なんだったのォ!?
ねぇ、楽さ~~~~ん!
<おわり>
スペシャルなフェアはまだまだつづく!
書き下ろしSS第二弾「いみちぇん!」SSは2026年1月5日(月)に公開予定!
おたのしみに♪
『絶対夢中☆あさばみゆきフェア』では、スペシャルなSSがぜんぶで10種類も読めちゃう!?
期間中にあさばみゆきさんの対象書籍を買ってアプリで応募してね。
ほかにも、キャラクターと一緒に写真が撮れるARフォトフレームも配信中!
ぜひチェックしてね!
つばさ文庫の冬フェアも開催中!
『絶対夢中☆あさばみゆきフェア』といっしょにポイントがたまるから、ダブルで応募しよう♪
「サバイバー!!」のスマホ壁紙も交換できるから、ぜひチェックしてね!
さらに12月から「いみちぇん!!廻」の壁紙も追加!
お正月にぴったりな振り袖姿のりんねちゃんの壁紙をぜひ交換してね。
あさばみゆきさんのシリーズはここからチェック!