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お待たせしました、物語の【後編】を、
発売前に先行ためし読み!第2回を公開☆
衝撃のラストだった、1さつ前の26巻。
いったい、あの人はどうなっちゃったの――!?
とドキドキしていたみなさん、お待たせしました!
物語の続き【後編】『怪盗レッド(27) ピンチ!敵だらけの豪華列車☆の巻』が
3月12日に発売予定♪
発売まで待ちきれない! 早くつづきが読みたい!
そんなあなたにおくる、ひと足早いためし読みページ!
ヨーロッパで動く恭也たちファンタジスタチーム、
日本列島を縦断する、怪盗レッドチーム、2つの怪盗から、目がはなせない!
最高にハラハラドキドキのストーリー、開幕です!!!
ためし読み第2回は、ここからスタート!
4 失った者の意志を!
おれ――織戸恭也は、うすく目を開ける。
そのとたん身体を走りぬけた痛みに、顔をしかめる。
痛みのもとは、腕だ。
そういえば、撃たれたんだったな。
視線を上げると、ここは……車の中……か?
おれは、後部座席に寝かされているらしい。
「……移動中か」
「恭也様っ!?」
「恭也、目が覚めたの!?」
おれのかすかな声に反応して、助手席に座るサラがふり返り、運転席のツバキもミラーごしに視線をよこす。
「どこに……向かっている?」
声が、かすれてしまう。
長く意識を失っていたのかもしれない。
最後に覚えているのは、猛スピードで飛ばす船の上だった。
血を流しすぎて、気を失ったのだろう。
おれとしたことが、不覚だ。
長年のおれの配下であるツバキが、簡潔に教えてくれる。
「カイエ氏のところです。恭也様の治療を、安全に施してもらうためです」
さすがは、ツバキ。判断は的確だ。
「まかせる……」
それだけ告げると、おれは強い眠気にひきずりこまれるように、また意識を手ばなした。
次に目が覚めたときは、ベッドの上だった。
ここはどこだ?
ぼんやりとした頭で考えつつ、体をおこすとやはり、腕に痛みが走った。
目をやると、そこには清潔な包帯がまかれて、手当されていた。
痛みも、だいぶマシになっている。
そういえば、ツバキがカイエ氏のところへ向かう、と言っていたな。
この部屋の、豪華なつくりからして、カイエ氏の屋敷だろうか。
おれは、身をおこしてみる。
どうやら、体調はもどったようだ。
ツバキとサラとマサキは、どこだろう?
そういえば、一瞬、意識をとりもどしたとき、車の中にマサキのすがたがなかった。
別行動で、囮役でもしていたのだろうか。
とにかく、意識がもどった以上、この部屋でじっとしていても、しかたがないな。
動いてみるか、と考えたところで、外からドアが開いた。
現れたのは、温和そうなエプロンすがたの男だ。
「ああ、気がつかれましたか。よかったです」
男はおれのすがたを見て、ほっとした笑顔をみせる。
「ここはどちらですか?」
おれはていねいな口調で問いかける。
「カイエ様のお屋敷です。あなたのお仲間が、こちらまで運んでいらっしゃったんですよ。傷の手当は医師に来ていただいて行いました。銃弾は抜けていたので、あとは安静にしていればよいとのことです」
どうやら、ツバキたちは予定通りにカイエ氏を頼ることができたようだ。
「……ありがとうございます。カイエ氏にお会いできますか?」
「はい。目覚められたら、ご案内するよう承っております。こちらにどうぞ」
おれは男に先導されて、屋敷のろう下を歩いていく。
足もふらつかない。
おれのケガを気づかってか、男はだいぶゆっくりと歩いている。
カイエ氏の部下のはずだが、気の利く男だ。
男がしばらく進んだあと、あるドアの前で立ち止まる。
ノックをして、
「カイエ様、よろしいでしょうか」
と中に声をかける。
「かまわない」
返事があり、男はドアを開ける。
「織戸様がお目覚めになられましたので、お連れしました」
そこは応接間らしく、天井が高く広々とした部屋だった。
中央にソファがあり、そこにカイエ氏のほかに、サラとツバキのすがたもあった。
「恭也!」
「恭也様!」
サラとツバキが、顔を輝かせてパッと立ちあがる。
2人の向かいには、カイエ氏がすわっていた。
「すまない、手間をかけたな。……マサキはどうした?」
おれの言葉に、サラとツバキの表情が、かげった。
その瞬間、おれの頭に可能性としてよぎっていた、いやな予感が強くなる。
「マサキに、なにがあった?」
つとめて冷静な声でたずねるが、背中にはいやな汗が流れている。
まさか……。
ツバキが、くるしそうに口を開く。
「マサキは…………一時身を寄せたセーフハウスにしかけられていた爆弾をかかえて、海に飛びこみました。それ以外に、解除の時間も、方法もなく……、直後に爆発が……」
ツバキの言葉がかすれて消えた。
強くかみしめたツバキのくちびるが、真っ白になっている。
「………………そうか」
それだけこたえて、おれは、目を閉じて息をすう。
こまかい状況は、わからない。
だが、マサキは昏睡していたおれの命を助けるために、そうしたんだろう。
それだけは、まちがいない。
そして。
マサキを失い、ここでおれがただ悲しみにひたることを、マサキは望まないはずだ。
マサキが守ろうとするのは、いつも――おれの意志なのだから。
「マサキのために、おれは止まらない」
非情だと思われるだろうか。
そう思って、ツバキとサラに目を向けたが、同じように顔をあげていた。
その目にも、強い意志が感じられる。
「……そうね。ここまできたら、わたしもとことんまで付き合うから。命を助けられたのに、ここで手を引くなんて、運び屋の名が泣くわ」
「わたしは従者としての役割を全うします。それが、アイツの望みでしょうから」
サラとツバキが、キッパリと言う。
それまでずっと、黙っておれたちのやりとりをきいていたカイエ氏が、そっと口をはさむ。
「――一応、伝えておく。マサキが海に飛びこんだ場所から、遺体があがったという話はない。といっても、海流がある場所だ。すぐに見つからないからといって、希望を持たせるようなことも言えない」
カイエ氏が、冷静に情報を伝えてきた。
「わかっています。調査と――そして、おれの手当も……部下たちのことも。感謝します」
おれは、カイエ氏に深く頭をさげる。
「では――――本題に入るか?」
カイエ氏は、おれたちを気づかうように見てから、きいてくる。
「ええ。おれたちが、手に入れてきたものですね」
おれは答えて、ツバキたちと同じソファに座る。
おれたちは、そのために、ここまできた。
ツバキとサラが、危険な中で作戦を遂行したのも。
マサキが命をかけたのも。
ただ、この1冊の日記帳を手に入れるためなのだから。
おれは、ツバキとサラのほうを向いて、うなずいてから、再びカイエ氏を見て、言った。
「レオン・ガーネットの日記帳。確認しましょう」
5 タキオンのボスの書きのこしたこととは?
「恭也様、こちらです」
ツバキが金属製のケースを、テーブルの上に置いて、鍵を開ける。
ケースに納められていたのは、表紙に黒革が貼られた、日記帳だ。
一目で上等だとわかる革の表紙には、傷がついていたり、色合いがかすれているところもある。
日常的に使っていたのだろう。
持ち主の愛着が伝わってくるようだ。
「本物だろうな。何度か、レオンが、その日記帳を持っているのを見たことがある」
カイエ氏は、なつかしそうに目を細める。
実際に、レオンと親交のあったカイエ氏が言うのだから、可能性は高い。
「失礼します」
おれは一言口にしてから、日記帳を手にとった。
思ったよりも、ずっしりとした重量感があり、かなり分厚い。
表紙を開く前に、一瞬手を止める。
これから、おれがあばくのは、他人の日記だ。
いわば、レオン氏の心のうちを読むようなもの。
おれの「美学」では、あまり美しいことだとは思わない。
だが、目的のために必要とあれば、おれはためらわない。
表紙を開くと、書かれていた文字は、流れるような英語だった。
最初の日付は、2月6日。
この日が、日記が書かれた最初の日付らしい。
1日ごとに半ページを使って、書きしるされている。
ただ、几帳面な人物ではなかったのか、日付は飛び飛びだ。
となりのページが10日後ということもある。
それで、この分厚さだと、数年分はあるだろうか。
「レオン・ガーネットは、これよりも前から日記をつけていたんですか?」
おれは、カイエ氏にたずねる。
「いや。本来は、そういうことを面倒くさがるやつだった。だからこそ、レオンから『日記帳をつけている』ときいたときには、驚いた」
「そんな人が、どうして日記をつけるようになったのかな?」
サラが、首をかしげる。
すると、カイエ氏がほほ笑んでうなずいた。
「その日記は、2月6日から始まっているだろう?」
「ええ。その日が、なにか?」
「レオンが結婚した、次の日だ。彼は、結婚を機に日記をつけるようになったんだ」
「それは……どうして?」
結婚は、たしかに人生の重大なできごとなのかもしれない。
だが、日記をつける理由としては、あまりピンとこない。
「『ここからが、おれの第二の人生だからだ』と笑っていた。レオンにとって、妻のシャーロットが、それだけ大事だったということなのだろうな」
カイエ氏は、当時のことを思いだしたのか、小さく笑った。
「そういうものですか」
レオンと親しかったカイエ氏が言うのなら、そうだったのだろう。
とにかく、日記帳を読んでみることにしよう。
だが、目を通しはじめて、すぐに気づいた。
なんだ、これは?
「……これは、本当に個人的な日記帳らしい」
おもに妻の話題。
そして、その日のカフェで飲んだコーヒーがうまかった、とか他愛のないことだけが、ひたすらつづられている。
タキオンのことなど、ほとんどうかがえない。
これでは、ただの愛妻家だった男の日記を、ぬすみ読みしているようなものだ。
これが、師匠――アルフォンスがおれに「探りだせ」と言ったものの正体なのか?
おもわず顔をしかめそうになるおれに、カイエ氏が言った。
「そうだろうな――だが、おまえたちが知りたかったことは書かれているはずだ」
意味深な言葉に、おれは少し、せすじを伸ばす。
読み進めればわかる、ということか。
日記の最初には、レオンと、妻のシャーロットとの出会いについて書かれていた。
日記によると、シャーロットは世界で一番聡明で、美しく、やさしい女性なのだそうだ。
この書き出しだけでも、タキオンの元ボス・レオンの印象が、だいぶ揺らぐ。
タキオンのボスと言うからには、隙のない非情でおそろしい人間だと思っていた。
だが、それはそれとして、どうやらふつうの人間と同じような感情も持ちあわせていたらしい。
おれは読み進めながら、内容をかいつまんでツバキとサラにも伝える。
ページをめくっていくと、レオンとシャーロットの夫婦の間に、悩みごとが発生していった。
なかなか子どもがさずからない――という。
2人の話しあいについて、何ページも割かれている。
いったいどこに、どんな情報が残されているかわからないから、読み飛ばすわけにもいかないのだが……。
このままずっと、おれたちは、夫婦のプライベートを読まねばならないのか?
「………………ねえ、恭也?」
サラが、退屈そうに口をはさんでくる。
不平を言いたい気持ちはわかる。
「今のタキオンのボスって、レオンの息子なのよね? いつになったら出てくるのかな」
そう、現ボスのノア・ガーネットは、元ボスの息子だという話だ。
この先に、ノアをさずかるという話が出てくるのだろうか……。
まだ、日記の先は長い。
「読んでいけばわかるんだろう」
おれは、あくびをかみ殺しながら言って、次のページをめくった。
6 名前のない子ども
何ページも、果てしなく退屈な内容を読み進めていくうちに。
ふと、ページをめくる、おれの指が止まった。
「――――レオンは、シャーロットとの話し合いの結果、『養子をむかえる』と決めた」
おれは日記帳から顔を上げないまま、サラとツバキに伝える。
養子。
つまり、血のつながらない子どもを、自分たちの子どもとして迎える、ということだ。
「それって、今のタキオンのボスが養子だってこと?」
「ノアとアリーヤ、双子の2人を引き取ったということですね」
サラとツバキは、平然とこたえる。
日本では、あまり話題に上がらないが、他国では、養子はアダプテッド・チャイルドと呼ばれ、よくあることだ。
実子がいる場合でも引き取られて、いっしょに育つこともめずらしくはない。
さらに読み進める。
養子をむかえると決めたものの、その子どもをどこからむかえるかに、レオンとシャーロットはだいぶ悩んだようだ。
それはそうだ。
レオンの「子」になるということは、犯罪組織タキオンと深いかかわりを持つということだ。
実子としてさずかる子どもならともかく、養子としてむかえられた子どもには、同時に、その運命を背負わせることになる。
日記帳には、こう書かれていた。
『組織の人間から養子をとることも考えてみた。
タキオンとの関わりを思えば、一番問題が少ない。
だが、それが、組織内の権力争いの火種になることは目に見えている。
次に考えたのは、一般家庭から養子をもらうことだ。
私とシャーロットは、ただ子どもを育てたいだけだ。
その子は、かならずしもタキオンに関わらなくてもいい。
いっそ、組織の力関係がないところからなら、と思ったが、これもすぐに却下した。
養子にむかえた子どもの元の家族が、のちのち命をねらわれるかもしれない。
そうなれば、悲劇を生むことになる。
そして、最後の方法としてあがったのが、身寄りのまったくない子どもたちの中から養子候補を探すことだ。
血縁関係が完全にわからない境遇の子であれば、その子の身内がねらわれることもない。
その子を、ただの「レオンとシャーロットの子」としてむかえ、愛することができる。
そして、私とシャーロットは動きはじめた』
「孤児から、犯罪組織のボスの養子に……でもまあ、それでもマシと言えるかもしれないわよね。少なくとも、この2人は、子どもに愛情をそそぐつもりはあるわけだし」
サラが複雑な顔でうなずく。
そういえば、サラも親とは幼いころに離ればなれになったきり、たった1人で生き抜いてきたときいた。
だからこそ、幼いころから「運び屋」として生きてきたのだ。
そういうおれ自身も、航空機事故にあい、そのまま死ぬ運命だった。
アルフォンスがおれを発見し、自分の手もとで育てなければ、おれは生きられなかっただろう。
おれの場合は、拾われた先がよかった。
この2人が養子に迎える子どもも、そうなればいいのだが――。
おれはそう思いつつ、日記帳に視線を落とす。
イギリスなど欧州では、現在、身寄りのない子どもは里親に委託をされる場合が多く、かつてのような「児童養護施設」と呼ばれる施設は少なくなっている。
それでも、身寄りのない子がいなくなるわけではないから、彼らの受け皿はある。
どの子どもをひきとるべきか、レオンは慎重だった。
レオンの養子になるということは、周囲はその子を「タキオンのボスの後継者候補」とみなす。
レオンたちも本人も、望まなかったとしても、まわりはそう見るだろう。
まず、そのことが受け入れられるだけの精神的な強さと――仮にその子が望んだとき、本当にタキオンという組織を束ねるだけの能力が必要だ。
タキオンにかかわりたくないなら、そう生きてもいい――とレオンが言っても、その子が中途半端な人物に成長すれば、だれにどう利用されるか、わからない。
犯罪組織とは、そういうものだ。
レオンとシャーロットは、子ども自身の思うように、自由に生きてもらいたいと願っているようだ。
それでも、一番身近にあるのが犯罪組織であったとき、真っ当に生きるのは難しいかもしれないが――。
色々な場所を見てまわり、レオンたちは、候補を5人ほどにしぼった。
ある夜、リビングで、レオンとシャーロットはテーブルをはさんで、向きあっていた。
「アレクはどうだろう。利発な子だった」
レオンは、はきはきと受け答えをしていた男の子の名前をあげる。
「すてきな子だったわね。うちが、ただの資産家の家だったなら、もちろん歓迎するのだけど……」
理由は言わなかったが、シャーロットは、うちには合わないと感じたらしい。
レオンは、シャーロットのそういった勘を信じることにしていた。
「ふむ……だが、それ以外の子となると」
レオンは、会った子どもたちを思いうかべる。
能力でなら、それほど差はないな――と考えてから、すぐにレオンは頭をふった。
レオンには、つい人を能力で評価するクセがある。
組織のボスとしては必要なことだが、それだけを考えるべきじゃないと反省する。
「…………あの子がいいんじゃないかしら」
「あの子?」
シャーロットの言葉に、レオンは首をかしげる。
「名前がない子」
「ああ、自分の名をいやがった子か。たしか、アーサー、だったな」
正確には、名前はあるのだが、本人がそれを受けいれていないのだという。
そのため、なんと呼ぶのがいいのか、まわりの大人たちもこまっていた。
「あの子の目がね、気になっているの。――この世界も人も、なにも信じないっていう目をしていたわ」
「そういう子を、あえてわれわれの養子にしたいと言うんだね」
「あの子には、わたしたちみたいな夫婦じゃなきゃ、ダメだと思うの」
シャーロットの勘は、よく当たる。
たしかに、「あの子」には、子どもらしからぬ雰囲気があった。
単に「おとなびている」という以上に、世界に対して常に見さだめるような目を向けていると感じた。
これまでの生い立ちを考えれば、そういった気持ちを抱えてもおかしくない。
ただ、「あの子」の抱えるものは、それだけじゃないように思えた。
だからこそレオンは、候補とした5人の中で、もっとも優秀だった「あの子」の名をあげなかったのだが……。
「わかった、シャーロット。きみがそう言うなら、アーサー……いや、『あの子』に養子の話をしてみよう。もしも彼が同意するなら、われわれの子どもとしてむかえて、べつの名前を贈ろう」
「それがいいわ」
レオンの提案に、シャーロットがほほ笑んだ。
そのあとの日記には、こう書かれていた。
そうして、私たち夫婦は引き取った「あの子」に、新しい名前をプレゼントした。
どうやら気に入ってくれたようだった。
おれはそこまで読んで、日記帳から顔をあげた。
そこに書かれていた、新しい名前、とは――。
「ちょっと待ってくれ。――――――ニック、だって?」
おれは、カイエ氏のほうを見る。
カイエ氏は、おれの視線を受け止めると、うなずいた。
「そうだ。このことを知るのは、今となっては、古くからいる幹部クラスの人間か、あるいは、私のように生前のレオンと親しくしていたものだけだろうな」
カイエ氏は、知っていたのか。
「ニック・アークライトは、もともとはレオンの『子ども』だったのだよ」
公開はここまで! うう――――っ、いったいどういうこと!?
この続きは、3月12日に発売される
「怪盗レッド(27) ピンチ!敵だらけの豪華列車☆の巻」でどうぞ!