編集部からのお知らせ

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『いみちぇん!!廻』のスペシャルショートストーリー!

超豪華なあさばみゆきさんの書き下ろしSSを楽しんでね!

後編は2026年7月21日(火)11時公開予定!
さらに・・・!
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万宙とミツと銭湯と

☆『いみちぇん!!廻 三.神隠しの取り替え子』あたりのお話だよ♪

<あらすじ>

樹と一緒に暮らすことになったミツ。同じマンションに住む万宙は、樹から「ミツが熱を出した」と連絡をうけて――?


 ちょうど会社から帰ってきて、部屋着に着替ようとしてたタイミングだった。
「病院?」
 マンションの外廊下に、顔をこわばらせた樹が立ってる。
 Tシャツに薄いカーディガンの一枚の、寒そうなカッコで、白い息を吐いて。

「ミツが夕飯食べに出てこないから、部屋のぞいてみたんです。そうしたら、すごい熱で。この時間、まだやってる病院あるか調べてもらいたくて。あと体温計があったら借りられますか」
 オレは腕時計を確かめる。
 今、八時半。
 さすがにもう診療時間は終わってるよな。

「悪い、ウチも体温計ないや。病院はちょっと待って、調べてみる」
「ぼくネットと相性が悪いせいで、自分で調べられなくてすみません。救急車呼ぶような感じではないと思うんですけど」
 めずらしい、樹の心細い顔。
 だよな。しっかりして見えても、まだ中学生だもんな。
 自分ならまだしも、友達がしんどいの見てたら動揺して当たり前だ。
「知ってるよ。匠もそんなこと言って文通だったもん。矢神家ってタイヘンだよな。――まずミツの様子見に行くわ。先もどってて」
「ありがとうございます」

 樹は廊下を走っていく。
 オレもネクタイだけほどいて、頭痛薬と風邪薬の箱、冷蔵庫の水のボトルに、食事がめんどい時用に買っといたゼリー飲料やらを適当にビニールぶくろへつっこみ、急いで部屋を出た。



「なにを考えてるんだ。ダメだって言っただろっ?」
 ミツと樹の部屋のドアは、カギも開けっ放しにしてあった。
 入るなり、樹の怒る声が聞こえてくる。
 ありゃりゃ、ケンカしてるよ。相手、熱あるんじゃねぇの?

「おじゃましまーす」
 いちおう声かけて中に入ると、樹が管理してるリビングは、真ん中にデカいコタツ。
 それ以外は、あいかわらずきっちり片付いてて、生活感がない。
 ――と思ったら、コゲくさいにおいがする。
 火でも点けっぱなしなのかと思ってのぞいたら、コンロの火は消えてるけど、コゲたナベがそのままになってんじゃん。
「おかゆかな……」
 オレが帰ってくるまで、一人でどうにか看病しようとしたんだろ。
 もうちょっと早く帰って来てりゃよかった。
 つか、スマホに電話くれればいいのに、オレ、まだエンリョされてんだなぁ。

「ミツ、入るよー」
 部屋の戸口から、ひょこっと顔をのぞかせる。
 画材が床に散らばったままの部屋の、奥。
 ベッドの前に樹がヒザをついてる。こっちをふり向くと、マジギレの顔だよ。
「どしたの」
「病院連れていくって言ったら、白状しました。ミツ、消えかけのマガツ鬼を〝入れた〟そうです。ゼッタイにやめろって言ったのに」
「ええ~?」
「まったく。自分を大事にしろって言っただろ、ミツ」
 ミツがそういうコトできるって、聞いてたけどさ、マジか。
 樹の後ろからのぞき込むと、白い顔したミツが、ふとんにうずもれてる。
「しんどい?」
 ミツは首を横に振る。
 声も出てこない。しんどくないわけねぇわ。

 おでこには樹が置いてやったらしい、濡れタオルがのっかってる。
 ちょっとどかして手を当ててみたら、ビクッと震えた。
 人にさわられんの、慣れてないんだよな。
 ごめんなと思いつつ、首をひねる。これ、何度くらいあんだろなぁ。八度越えてるか?
 おでこは明らかに熱いのに、寒そうにしてる。
 これからまだ熱上がるってことだよな……。
 正直、人の看病なんてしたことないから、オレだってどうすりゃいいのか分かんねぇや。

「オレはそっち方面のこと分かんないけど、こういうの、初めてじゃないんだろ?」
 ミツは小さくうなずく。
「そん時、どうしてた?」
「……ねてた」
 カサカサの声が返ってきた。
「そっか」
「だから、ねてたら、なおる」
「万宙さん。マガツ鬼を〝入れた〟せいなら、たぶん病院に行ってもどうしようもないと思います。体力で回復するの待つしか。……すみません、ぼくが呼び出しちゃったのに」
「いや、来てくれてよかったよ。こういう時の『保護者』だろ?」
 まぁ、吐き気がなくて水飲めてんなら、様子見でよさそうか?
 明日の朝、まだ熱が下がってなかったら、朝イチで解熱剤もらいに行こうなってヤクソクさせた。
 会社はフレックスだから問題ないけど、熱あんのにバイクじゃな。車借りるか。
「なんか食べられそ?」
 ミツはかすかに首を横にふる。
 オレはゼリー飲料のフタをねじ切って、軽くしめ直したのを、ミツのほっぺたの横に置いてやる。
「ちょっとずつでも飲んどきな。樹は、さっきのナベ、早めに洗っといたほうがいいかもよ。冷めちゃうまえに」
「あ、はいっ」
「ついでにこのタオル、もっかい冷やして来てあげてー」
「はい!」
 樹はバタバタと部屋を出ていく。

 オレと二人だけになって、ミツは困ったふうに見上げてくる。
 キッチンのほうから、樹が水道を使う音が響き始めた。
「ミツ。ダメって言われてたんだろ? なんでやっちゃったん」
「……消えそうで、かわいそうだったから」
 ぽそぽそ、スナオな答えが返ってくる。
「それに、こんなになること、めったにない。慣れたと思ってた」
 オレは部外者だから、そっかぁ~とマヌケな返事しかできないけどさ。

「でもさ、しんどくなるかもしんないの、分かってはいたんだろ? ……なんかあった?」
 あえて、樹のストップ破りたくなるようなコトが。
 ハタから見てて、最近、楽しそうだなって思ってたんだけどな。
「……なんか、なんとなく」
 息をついて、ミツの枕の横にほおづえをつく。
 ミツは、叱られんのかなって目でこっちをうかがってくる。

「しんどいと、安心する?」

 のぞきこむと、ミツは目を見開いた。

 痛いのとか苦しいのって、そんな、「悪くない」んだよな。
 思いのほかうまくいっちゃってて、本気で楽しくなっちゃって、本気で笑えてる自分よりも。かわいそうな自分のほうが、ずっと「正しい」ような気がすんだよ。
 
 親に「大好きだよ」って言ってもらえなかった自分なんだから。
 親を見捨てたオレなんだから。
 ちゃんとこうして罰を受けて、しんどくしてなきゃ。これで正しいんだろ。ちゃんと痛くしてるから、許してよ。
 笑ってられる場所に、このまま居続けるの、許してよ。……って。

 ベツに寝込んでたって、親が気づくワケじゃないし、あっちはこっちがしんどくたって、気にもしないんだろーし?
 そもそも、親にそんなん許可とる必要ないじゃんって、頭では分かっててもさ。

「ミツはまだ、親から離れたばっかだもんな。今が楽しけりゃ楽しいほど、罪悪感みたいなのがかぶさってきて、どうしようもなくなんの、しょうがねぇよ。オレだっていまだに、たまにグワーッてなるもん」
 熱のせいでうるんだ瞳が、まっすぐにオレを見上げてくる。
 なぐさめてんのか、トドメさしてんのか、分かんなくなってきたな。
 やめとこ。
 オレみたいなのより、ハジメさんや匠みたいな、もっと真っ当な、たよりがいある「保護者」がソバにいりゃよかったんだけどさ。

「……そっか。そういうこと、なのかな……。オレ……」
 乾いたくちびるが、ゆっくり動く。瞳が下を向いて、自分の暗い所へ沈みこんでいこうとする。

 オレはゼリーのフタをはずして、ミツの口につっこんだ。
「ちょっと胃に入れたら、薬飲みな。市販の頭痛薬だけど、熱も下がっから」
 ミツはふとんから手を出して、パックを自分で持つ。
 ちまちま飲みだしたのを見て、ヒナにエサやってるみてぇって、なんか笑っちゃったよ。
 かわいいな。

「……あのさ。熱下がって元気になったら、銭湯行かね?」
「ふろ?」
「そ。週末にはもう元気かな。土曜とかどうよ」
 薬の包装を破って、二錠手のひらにのせてやる。
 水のボトルを用意してる間に、ミツはふらふらしながら自分で身を起こした。
 ちゃんと飲んでるのを確認してたら、ミツはぼそりとつぶやいた。
「……ない」
「ん?」
 首を支えてベッドにもどるのを手伝ったら、その間、うかがう視線が、オレをじっと見つめてくる。

「わかんない。……万宙さん、なんで、こんな、オレに優しくしてくれんの」
 真下の瞳が、不安に揺れてる。でも警戒の目じゃないんだ。
 オレの答えを確かめたいってだけ。
「そりゃ、ミツがかわいいなぁって思ってるから?」
 にこーっと笑ってみたら、だまっちゃったよ。
 中学生男子がかわいいなんて言われても、喜ばないよなァ。

「ハジメさんにたのまれたからだって、樹はともかく、オレは無関係なのに。親ガチャはずれた仲間だって、オレに優しくしても、万宙さん、なんにもイイことないじゃんか。めんどいだけだ」
 かすれたちっちゃい声が、こいつの自己評価、そのものみたいだ。
 オレは眉が下がる。
「オレ、全然いい人じゃないよ? ゲンメツすっかもしんないけど、オレが自分勝手に、オレのためにしたくて優しくしてんの。自己満足。そいだけ」
「じこまんぞく……」
 ほら、熱あんのにグルグル難しいこと考えるから、ぼーっとしちゃってんじゃん。
「ミツを甘やかしてると、オレが、自分を好きになれるからだよ」
「……変なの」
「変だよな。ハハ。ほら、おやすみ。起きたら薬効いて、楽になってるよ」
 解熱剤が効くのか、ぶっちゃけオレもわかんねぇから、これこそ自己満だ。
 なんかしてやった気になって、オレが安心したいだけ。

「万宙さん、あっちいっていい」
「ミツが寝たらな」
「……やだ」
 ミツはまくらに横顔を押しつける。
 あんま甘やかされたら……って、つぶやきが、途中で消えた。
 けっこう限界だったらしい。すぐに、静かな寝息が聞こえ始めた。
 その寝顔の目尻に、涙のつぶがついてる。

 中途半端に手を差しだされて、やっぱもうやめたって引っ込められんの、ヤダもんな。
 甘やかされんのは、怖い。
 オレも、モモや匠に優しくされたとき、そう思ったよ。

 視線に気づいてふり向いたら、戸口に樹が立って、心配そうにこっちを眺めてた。
 こういう時、匠だったらズカズカ入ってきそうだけど、弟はエンリョしがちっていうか、空気読むんだよなぁ。
「ミツ、寝たよ」
「よかった。ありがとうございます、万宙さん」
「んーん」
 オレはさりげなくミツの目尻をぬぐってやってから、立ち上がった。
「寝汗かくと思うから、起きたら着がえさせてやって。また様子見にくるけど、チャイム鳴らすと起きちゃうだろうから、勝手に合鍵で入っていい?」
「もちろんです」
「じゃ、ちょっともどるわ。樹は夕飯食べてないんだろ? ついでになんか持ってくる」
「ぼ、ぼくの分は、おかゆがあるんで……」
「それじゃたんないだろ、男子中学生」

 樹はりちぎに、わざわざ玄関まで送ってくれる。
 樹の頭もワシワシなでてやった。ハジメさんがやるみたいに。
「万宙さんがいてくれて、本当によかった。助かりました」
「なーんも」
 たいした事にしてないのに、言葉一つで、オレもここに居ていい気持ちになっちゃうなんてな。
 ほんと業が深いっつか、イヤんなるよ。

『万宙とミツと銭湯と』後編につづく

(後編は2026年7月21日11時ごろ公開予定!)


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平和な学園生活を送りたいから、
みんなの前では、“ふつう”のフリをしてるんだ。

だけどあるとき、クラスに「悪いもの」があらわれて――
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