編集部からのお知らせ

NEW!

第6作め❤
みんなが送ってくれたネタをもとに
作者の無月蒼さんが短編を書き下ろしちゃう企画です!

第12回角川つばさ文庫小説賞で〈金賞〉を受賞した『アオハル100%』
# 読者の考えたアオハルチャレンジ
を募集したところ、
ファンレターや、感想投稿から、たくさんアイディアが集まったよ。
寄せられたアイディアで、書き下ろしたSS(ショートストーリー)、さて今回はどんな話?

これまでの # 読者の考えたアオハルチャレンジ もまとめて読めるよ!







『アオハル100% # 読者の考えたアオハルチャレンジ』


スペシャルストーリー6☆#情熱のありか



【こんにちはー、青春仕掛け人でーす!
今日のアオハルチャレンジのお題は、れなれなさんのアイディア。#情熱のありか だよ!
ハッシュタグをつけて、みんなの情熱をそそいだ写真や動画を、どんどんポストしてね!】


スマホでSNSを見ていたオレ――東條雷(とうじょう・らい)が見つけたのは、新しい # アオハルチャレンジ募集のポスト。
アオハルチャレンジは、最近オレも、やりはじめたんだけど、これが意外とおもしろいんだよな。
最近は、いつどんな新しいチャレンジがポストされるか、ちょっとワクワクして待ってるくらい。

それにしても、情熱のありか、かあ。

「なんだ、オレにピッタリのお題じゃねーか」

なにせオレは小さいころから、ダンスひとすじで生きてきた。
情熱なくして、ダンスは踊れねーもんな。

「オレのためにあるようなお題だな。なあユウ」

となりにいる親友、久留見ユウに同意を求める。
けど……。

「そうかもね。――けどねライ。
今のライは、アオハルチャレンジよりも、宿題に集中したほうがいいんじゃないかなあ?

ひかえめだけど、こまった顔で言う、ユウが手にしているのは、夏休みの宿題。
おいおい、固いこと言うなよ。

オレたちは小学生のころからよくこうしてどちらかの家にあつまって、宿題をやってた。
いまは、べつの中学に通ってるけど、勉強の内容は似たようなもの。
去年までと同じように、今日もこうしていっしょに宿題をやっている。
まあほとんどオレがわからないところを、ユウにきいてるんだけどな。

今日は英語の宿題をやろうと問題集を持ってきたけど。
やっぱり、ぜんっぜん、わからなくて。
ついついスマホをいじってた。

「まあ宿題なんて、のんびりやればいいだろ。まだ7月なんだし」
「そんなこと言って、毎年、最後になってあわてるのは、だれだっけ?」
「それを言うなって。ユウはどれくらい終わったんだ?」
「ん? たぶん今日か明日には終わると思う。自由研究と読書感想文はまだだけど」

あっけらかんと答えるユウ。マジか。
まだ7月だってのに、はえーだろ。
でも、小さいころからユウは、最初の1週間で、ほとんど終わらせるタイプなんだよなあ……。

「あいかわらず、ユウはまじめだよな」
「そうでもないよ。めんどうなことを、早く終わらせておきたいだけだし。ライだって、どうせやるなら、早いほうがいいんじゃない?」
「そりゃそうだけど、やっぱやる気、出ねんだよな。だいたいこんなの勉強したって、いつかなにか役にたつのかよ?」
「そりゃ、立つんじゃない?
 たとえば英語。前にいつかダンスで、海外進出したいって言ってたよね? そのとき、しゃべれなかったら、こまるんじゃないの?」

うっ。
クルミは、ニッコリ顔で、オレのいたいところをついてくる。

オレの夢は、いつか、世界的ダンサーになること。
けどかなしいことに、オレは壊滅的に英語がにがてなんだよなあ。
英語の問題集をうらめしげに見ながら、ため息をつく。

「いんだよ! そのときは通訳をやとうから! 苦手なことなんて、やらずにすむならだれだってそのほうが……

………………いや、そうともかぎらないか。
とくにユウは。

ふと小学校のころの、ある日のできごとを思いだす。
オレたちが、はじめて話すようになったきっかけの、あのときのことを……。

◇◆◇◆

いまでこそ、オレとユウは親友だけど、最初からなかがよかったわけじゃない。
オレは外で遊ぶのが好きなタイプだけど。
ユウはインドアで、せいかくもおとなしいし、めだつほうじゃなかった。
いや、めだつことはなくはなかったけど……
それは、あまりよくない意味で。

ある日の体育のあと、クラスの男子の数人が、ユウのことを笑っていたっけ。
「ははっ。ユウのやつ、まだ逆上がりできなかったな」
「見ろよ、ダッセーの」

ん?
目をやると、1人でじっと鉄棒を見つめてるユウのすがたがある。

その日の体育は、鉄棒だった。
だけどユウは最後まで、逆上がりができなかったんだ。
鉄棒だけじゃない。
ユウは運動全般がにがてで。
たしかとび箱をとべるようになったのも、水泳で25メートルが泳げるようになったのも、クラスで一番最後だったっけ。
そうすると、どうしても目にとまって、今みたいに笑うやつが出てくるんだよなあ……。

あ、オレはそんなことしないぜ、人ができないことをわらうなんて、クソダセーこと。
それに、にがてなことくらい、だれにだってあるんだしな。

……それにじつは。そのときのオレは、ある悩みをかかえてた。
それは通ってるダンス教室で、最近新しく習ったステップが、上手くふめねーこと!
何度やっても上手くいかずに、イライラがたまる一方。
昨日も、スタジオの時間いっぱい練習したけど、結局できずに、むかつきながら帰ったっけ。

だから、できないことをバカにされてるユウを見てると。
昨日の自分を思いだして、さらにイヤな気持ちになったんだよな。

オレは笑ってるやつらに近づいて、肩を、ポンとたたいた。

「おい、こんなとこでしゃべってていいのかよ? 次の算数、テストだぜ」
「え? やべえ、勉強してねえ!」

さっきまでゲラゲラ笑っていたのがウソみたいに、とたんにあわてだす。
一方ユウはというと、そもそもコイツらの会話が耳に入っていたのかどうか。
まったく気にしたようすもなく、さっさと教室にもどってる。

――ま、きこえてなかったんなら、いいか。
そのあと、オレも教室にもどって、話はそれで終わり――そのはずだったんだけど。

その日の放課後。
今日は、ダンス教室は休みで、本来はおどりたくてウズウズしてるはずだけど。
今日のオレは、そのことにホッとしてもいた。
だって、行ったら、またあのステップの練習を、えんえんしなきゃいけねーんだもん。
むずかしすぎて、どうしていいのかわからない、あのステップを。

ダンスを踊ってるときは、自由になれて、かっこいいから好きなんだ。
いつまでもダサい失敗をくりかえすのは、しょうじきつらい……。

校舎を出てグラウンドの前を通りながら、昨日の自分を思いだす。
はたで見てたら、へたくそだっただろうな。
ダンスは好きだけど、あんなに何度チャレンジしてもできねーっていうのは。
さすがにしんどくなってくるぜ……。

「あーあ。いっそ、あのステップぬきで、踊れりゃいいのになあ……って」
ん?

なんの気なしに見た、グラウンドのはしにある鉄棒。
そのかたわらに立ってるのは――あいつ、ユウだ。

「なにやってんだ?」

見るとユウは、鉄棒に両手をのばして、ぶらさがった。
それから、逆上がりの練習にとりかかる。
おれは、すぐに今日の体育のことを思いだした。
ひょっとしてアイツ、バカにされたことがショックで、それで練習しようって思ったのか?

べつにほうっておいてもよかったけど、気づいちまった以上、このまま帰るのも、モヤモヤする。
オレはユウのところにむかった。

「おーい、おまえ、なにやってんだ」
「え、ライくん?」

クラスはいっしょだけど、ほとんど話したことのないオレに声をかけられて、おどろいたのか、ユウはキョトンとした顔をする。

「ちょっと逆上がりの練習をね。オレ、まだできないから」
「ひょっとして、笑われたのを気にしてんのか?」
「え、オレ笑われてた?」

って、気づいてなかったのかよ。
よけいなこと言っちまったか。
けど、そんなこと、ユウは気にする様子もなく、「しょうがないね、できないんだから」と言って、また鉄棒にとりかかる。
や……気にしてないんなら、いいんだけどさ。

ユウは両手で鉄棒をつかんで、何度も地面をけるけど、ぜんぜんまわれない。
けりあげては地面に落ちる、そのすがたは。
しょーじき、ダサい。

やっぱり今のコイツ、あのステップをふめないオレと、なんだか似てるなあ……。
それにしても、わざわざ放課後残ってまで練習するなんて……。

「お前、じつは鉄棒、好きなのか?」
「ううん、ぜんぜん」
「じゃあ体育とか、体動かすのが好きなのか?」
「あんまり、好きじゃないかなあ。オレ、運動にがてだから」

それは、体育の授業の様子を見てりゃわかるけど……。
けどさ。それなら、なんでそんなに、熱心にやってるんだよ?

「好きじゃないなら、どうしてやるんだ? べつに無理してがんばらなくてもいいだろ?」

するとユウは「う~ん」と考えたあと、口を開く。

「でも、できないままになってるのって、くやしいでしょ。ひとに笑われるのはべつにいいけど、にがてだからって、すぐあきらめるのは、オレは、ちょっとね」

なんだよ、それ。言ってることは、かっこいいのに。
クルミは、はずかしそうな苦笑いをうかべながら、こたえてる。

……こいつって。おとなしそうに見えて、すげえ負けずギライなんだな。

ユウはそれから何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
逆上がりの練習をして、オレはそばで、その様子を見ていた。
何度やっても上手くいかない。
けど、ユウは、決して止めようとはしない。

……コイツ。
好きじゃないことなのに、こんなに熱心にやるんだな。
そう思うと急に、ステップが上手くいかなくて、ふてくされてた自分が、ものすごくちっぽけに思えてきた。

「……明日、コーチに、アドバイスもらってみるかなあ……」
オレはつぶやく。

だって、ユウの鉄棒とちがって、ダンスは、オレが好きではじめたこと。
なのに上手くいかないからって、すぐあきらめたら、カッコわるいよな。

けど、今日はその前に……。

「なあ、練習、手伝ってやろうか?」
「え、いいの?」
「ああ。今日はヒマだしな。――いいか、まず地面をけるときは……」

オレは実演をまじえながら、コツを教えていく。
ユウは、熱心に、オレの話をきいて、また何度もチャレンジした。
それからだ。オレたちは、よく話しをするようになっていったんだ……。

◇◆◇◆

……ずいぶん前のことを思いだしたなあ。
あのあと、ユウは、すぐにとはいかなかったけど、ちゃんと逆上がりをマスターした。

思えばユウは、とび箱をとべるようになったのも。
水泳で25メートル泳げるようになったのも、クラスで一番最後だった。
けど、大事なことをわすれちゃいけない。

とび箱をとべたのも泳げるようになったのが一番最後ってことは。
クルミは、最後には、ちゃんとできるようになったってことだ!

苦手なことから逃げずにやりとげるコイツって、好きなことをがんばるオレよりも、スゴい。
――なんて、おれは思ってるんだ。

ユウはさっきからだまりこんだオレを、ふしぎそうに見てる。

「どうしたの、ライ?」
「いや、ユウってスゲーヤツだよなあって思って」
「はあ? オレが?」

ユウは、ふしぎそうに首をかしげる。
苦手なことだって、いつも絶対に手をぬかねーユウは、やっぱオレの知ってるヤツの中で、一番カッコいーよ。
だから。
……うん、オレもちょっとは、がんばってみるか。
手にしていた英語の問題集を、パラパラ開いてみる。

「しょーがねえ、やるか!」
「え、やる気になったの!」
「ああ。アイツはダンス以外なんにもできねーなんて、言われたくねーからなっ」

問題を読んでも、ちんぷんかんぷんだったけど。
教科書を見たり、ユウにヒントをもらったりしながら、少しずつ解いていく。

……つーか、これってさ。
さっきのアオハルチャレンジ、#情熱のありか に使えるかもな。
好きなことに全力でがんばるのも、情熱だけど。
苦手なことに、めげずにチャレンジするのだって、情熱がなきゃできねーもんな。

オレらしくないけど、たまには、こういうのもいいかも?
そんなことを考えながら、オレはふたたび問題にいどんでいった。

◇◆◇◆

……そのすこしあと。
苦労のすえ、やっと、英語の宿題を最後まで終わらせたオレは。
解き終わった問題集をバラバラッと拓いて見せた動画をとって。
#情熱のありか のハッシュタグをつけて、SNSにポストした。

【にがてな英語の宿題を、そうそうに終わらせてやったぜ!
これがオレの情熱のありか、だ!】

ってなっ!
――けど、返ってきた反応はというと……。

【ええっ! ライが勉強してる!? どうしちゃったの!?】
【ライ、暑さで頭やられてない?】
【まさかアカウント乗っとられてるんじゃ?】


なんて、おどろくだけじゃなくて、オレを心配する声まである。
おいっ!
オレが勉強するのが、そんなにおかしいかよ!?


予想外の反応に、オレはスマホをほうり投げそうになった。

おしまい

7話め以降も、公開されるかも?
あなたのアイディアも待ってるよ!本の感想といっしょに、書いてくれたらうれしいな!

ちょ~~~~~かわいい『アオハル100%』の特集ページ、
みんなもう見てくれた?

「アオハル100%」のお話の魅力や、キャラ、見どころが
ギュッと1ページにつまったページです。
まだ見てない子はぜひチェックしてね!


▲この絵を押すと、特集ページにとぶよ!


『アオハル100% バチバチ!はじける最強ライバル!?』にも 
#読者の考えたアオハルチャレンジ の小説が1作、入ってるよ!

な ん と!
「#読者の考えたアオハルチャレンジ」から生まれたスペシャルストーリーは、
この本の中にも1作、入ってるんだよ!
本では、だれのお題が採用されているのか、ぜひチェックしてね!


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